三島由紀夫「仮面の告白」

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仮面の告白

自らの怪物性を自覚し、疎外感に悩む青年の告白

同性愛的傾向に悩む青年が自らの半生を回想する形で語られる。「永いあいだ、私は自分が生まれたときの光景を見たことがあると言い張っていた」

この物語の主人公が、既にタダモノではないと予感させるに十分な書き出しだが、更にこの後、後年の「私」の宿命的な特異性を暗示させるような、幼き日の様々なエピソードが丹念に語られる。糞尿汲取り人の姿を見て不思議な衝撃を受けたり、絵本に描かれた華麗な騎士像が実はジャンヌ・ダルクという女と知らされ激しく落胆したり、訓練帰りの軍人の汗の匂いに憧れたり、神輿の担ぎ手たちの陶酔の表情に心奪われたりといった具合である。

やがて13歳になったある日、ハプニングが起こる。父の外国土産の画集を盗み見ていた「私」は、その中に現れた聖セバスチャン像に激しく反応し、初めてのオナニーを経験してしまう。そんな「私」には片思いの相手があった。近江という名の、どこか悲劇的な雰囲気の漂う不良少年で、その逞しい体つき、少年らしからぬ豊饒な腋毛に魅せられる。海水浴に行ったときには、自分の腋毛を見て近江の腋毛を思い出し、思わずオナニーをしてしまう。

その頃からオナニーのしすぎで貧血気味となってしまい、そのせいか食卓に供せられた同級生の逞しい肉体をナイフで切って食べてしまうといった血みどろの妄想にふけるようにもなる。

やがて「初恋」も、近江が退学処分となり儚い思い出として終わってしまう。その一方「私」は友達との間にある埋めがたいギャップに戸惑いを感じるようにもなっていた。「私」は常に、他の同年代の男なら女たちに対してどう感じ、肉体的にどう反応するだろうという類推のもとで振舞うことを余儀なくされるようになる。

そして話は終戦の前年に。女に情欲を持ち得ない「私」は大学生になっても当然のことながら童貞のままだったが、そんな「私」にもようやくガールフレンドらしき人ができる。友人の妹で、園子という名の清楚な乙女であった。

しかし園子との付き合いを通しても苦しい演技は続く。園子に対して何の情欲も持てないことを、プラトニックな愛のせいだと思い込もうとする。そんなことだから二人の関係は一向に進まない。一方で、例の血みどろの妄想と悪習は日増しにエスカレートしていく。

ある日、ふとしたハプニングで親戚の女と初キスを経験したことで少し自信を深め、何が何でも園子とキスしようと決意する。結局その決意を現実のものとすることに成功するが、そこから得た結論は惨憺たるものだった。

絶望にうちひしがれた「私」は、戦争で死ぬという望みを終戦によって絶たれ、さらに園子との結婚話も立ち消えになってしまう。続く一年を機械的な法律の勉強に費やした「私」だったが、人並みの人生に乗り出す最後の望みをかけて、悪所へと向かう。

「娼婦が口紅にふちどられた金歯の大口をあけて逞しい舌を棒のようにさし出した。私もまねて舌を突き出した。舌端が触れ合った。…余人にはわかるまい。無感覚というものが強烈な痛みに似ていることを。私は全身が強烈な痛みで、しかもまったく感じられない痛みでしびれると感じた。私は枕に頭を落した。十分後に不可能が確定した。恥じが私の膝をわななかせた」

小説はその後、既に人妻となった園子と再会した「私」がダンスホールで彼女とのわずかな逢瀬を楽しむという場面でしめくくられる。園子との会話の一方で「私」の目は踊り場にたむろしていた一人の粗野で逞しい刺青のある若者に惹きつけられてしまう。こうして「私」の動かしがたい宿命を暗示する形で物語は終わる。

仮面の告白

仮面の告白

  • 三島 由紀夫

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