気鋭のアメリカ通が解き明かす「トランプ大統領誕生の背景」

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別冊付録・CD付 ENGLISH JOURNAL (イングリッシュジャーナル) 2017年 04月号

 特別企画として、町山智浩氏と越智道雄氏の対談が掲載されており、非常に興味深いのでまとめる。
 内容は、2016年の大統領選挙についてで、アメリカの歴史や国民感情などを踏まえつつ、多角的に論じている。なお、本号の対談は前編であり、つづく5月号に後編が掲載されている。

◼︎トランプを選んだサイレント・マジョリティー

・トランプは白人ブルーカラーだけ狙って票を固めた。トランプ自身は、彼らと何の接点もないが、彼らの機嫌をとる方法は知っていたので、受け入れられることに成功した。
・サイレント・マジョリティーの指示を受けなかった人物が大統領選に勝ったことは、史上一回もない(町山氏の言)。
・一方で、彼らは民族的にはバラバラであり、選挙の時だけ国を動かす。また、経済的に豊かではないので、経済政策としては左翼的なものを求めるが、モラル的には右翼的なものを求める。

◼︎共感を呼ぶ「戦争の経験」と「アンチ・エスタブリッシュメント」

・サイレント・マジョリティーは、ケルト系から東欧系まで系統はさまざまだが、愛国者を自認し、戦争に行った経験が多い。だから、選挙においても、戦争に行ったという経験は人気を博す。
・ケネディは戦争の英雄であることを売りにし、大統領選挙でニクソンに勝った(ニクソンは戦争には行ったが実戦には参加していない)。
・また、アンチ・ワシントン、アンチ・エスタブリッシュメントを売りにする人もまた選挙に強い。ブッシュ大統領(父)は頭部の金持ちの息子であり、貧乏人から成り上がったビル・クリントンに勝てるはずがなかった。
・トランプも就任演説でエスタブリッシュメントを批判した。

◼︎バーサー問題に見る「デマに弱いアメリカ人」

・オバマ大統領時代に、「オバマはケニア生まれだ」という主張があった。そう主張する人たちをバーサーbirtherという。トランプは2011年の中間選挙で出馬を匂わせた際、「オバマはケニア生まれだ」と言い出した。このころ既にバーサー問題はいったん沈静化していたにもかかわらず、トランプの発言を受けて再び盛り上がった。町山氏いわく、これは「トランプのマーケティング調査だった」。すなわち、世間にどれだけバカがいるか調べた。この時、多くの人がこのデマに乗ったため、トランプは「これはイケるぞ」と確信したと考えられる。
・アメリカの田舎の方では、オバマがイスラム教徒だと信じきっているおばあちゃんなんかがいる。2008年の大統領選挙で、共和党の候補だったマケインが、中西部の集会で、中年の女性から「オバマはイスラムのスパイなんでしょ。アメリカは支配されてしまうの?」などと真剣に言われてしまう。マケインも困ってしまい、「共和党は純真な田舎の人をデマで煽りすぎだ」と語ったという。

◼︎ヒラリーの不人気

・ヒラリーの夫のビル・クリントンは圧倒的な人気を誇り、モニカ・ルインスキー事件の後の任期末期ですら、支持率が67%もあった。この人気がヒラリーに続くかと思われたが、そうは行かなかった。
・ヒラリーは、シカゴのブルーカラーの家庭に生まれ、貧乏だった。ウェールズ系であり、非WASPであった。中西部の労働者階級の娘ということで、経歴的に、トランプよりもサイレント・マジョリティーに近い。しかし彼女にはワーキングクラスの雰囲気がほとんどなく、また「強そう」というイメージが裏目に出た(こういう有能な女性が犠牲になることを、「アマゾネス現象」と呼んだりする)。ディベートでトランプを打ち負かすだけの技量があったのに、人々の共感を得ることができなかった。

感想

 読後感として、トランプは、相手がヒラリーだから勝てたのではないかと思わせる。というのは、「戦争の経験」と「アンチ・エスタブリッシュメント」という選挙民にウケる要素のうち、ヒラリーは前者を持ち合わせないし、後者は強く打ち出すことができなかったからだ。ひょっとして、彼女は自身の出自にコンプレックスがあったのだろうか? 貧乏だったことをもっと強く打ち出していたなら、どうなっていたのだろうか?
 トランプは金持ちでありながら、スピーチにおいて一貫して白人ブルーカラー層にウケる発言を繰り返した。ヒラリーは、そこを巻き返すことができなかった。実に興味深い「ねじれ」である。

 越智氏も町山氏も、トランプの当選を予測できなかったという。
 その一方で、両氏とも「トランプ大統領は一期で終わるだろう」と踏んでいる。弾劾もありうる。 さて、これはどうなるか。
(2017年7月6日読了)

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