毎日新聞記者・日野行介氏にだけ語った ロシア研究者による「歪められたチェルノブイリ・データ」

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フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データ

 3.11から6年目を迎える福島原発事故。多発する甲状腺癌に政府が「チェルノブイリ・データ」を都合よく歪め、原発事故と健康被害の因果関係を否定する根拠として利用している可能性がある。気鋭のジャーナリスト日野行介氏だけが、ロシア研究者の尾松亮氏に独占取材が叶った。
 本書ではそこで明らかとなったこの国の為政者たちの奢りと身勝手さがつまびらかに明らかにされる。子ども・被災者生活支援法の際、復興庁の水野靖久参事官(当時)が被災者や市民団体を「左翼のクソども」と侮蔑するほどいかに「やる気」なく、被災者を見下しているのかが象徴的に現れた。
 尾松氏は新聞報道各紙のチェルブイリ被災国における甲状腺癌の増加時期を比較。大方はチェルノブイリ事故被害に関するロシア語の一次情報に直当たりした形跡が見られず「5年後増加」が当然のように書かれていた。甲状腺検査評価部会「中間とりまとめ」(15年3月)。整理すると①増加時期②年齢層③被曝量の3つの論点から政府は「チェルノブイリ」が福島原発事故と甲状腺癌の因果関係を否定する論拠としてきた。
 こうした「チェルノブイリ解釈利用」に対し、岡山大学の津田敏秀教授らは「5年後増加」説に異論を唱え続けてきた。チェルノブイリ事故翌年の87年から既に甲状腺癌の小幅な増加がみられたとしてチェルノブイリから20年目にあたる「ウクライナ政府報告書」(2006年)を論拠とした。さらに尾松氏は「ロシア政府報告書」を再読し「チェルノブイリ被災地では事故後2年目に甲状腺癌が増え4〜5年目に大幅に増加した」という決定的な事実を見つける。2013年10月7日に日野記者が「チェルノブイリで何があったのかを知りたい」と尾松氏にコメントではなく「情報公開請求した内部資料『チェルノブイリ出張報告—原子力発電所事故における被災者への対応について』チェックを依頼」してきた。いかにしてチェルノブイリ法「1ミリシーベルト基準」否定が行われたか。
 まず、尾松氏はチェルノブイリ原発事故と比べて福島事故ではセシウム137の放出量は6分の1、汚染面積がチェルノブイリ原発事故の6%だという主張に対し、日本の国土は旧ソ連の60分の1の面積しか持たない点に言及されていないと指摘。次にチェルノブイリ事故の影響と認める小児甲状腺癌のみがチェルノブイリ原発事故による健康被害で、かつ事故直後のヨウ素による内部被曝が原因だという記述は「ウクライナ政府報告書」(2011年)を全く無視したものだとした。さらにチェルノブイリ事故後、ソ連が採用した基準より日本の基準は年間5ミリシーベルトより高くともずっと厳格だという印象操作が行われたと批判。
 では日本版チェルノブイリ法を潰した確信犯とは誰か?2012年2月4日に福島市主催の「福島復興セミナー」で「ウクライナのチェルノブイリ事故による長期的影響への対処」と講演したナスビット国家戦略研究所研究員だ。ナスビット氏は「国の責任で被災者を保護するような法律は作ってはいけない。IAEAや国連開発プロジェクトのような国際機関の指導の元、被災自治体の責任でやるべき」と強調した。13年5月にウクライナを視察した日弁連にも「チェルノブイリ法は悪法」と印象づけたナスビット氏の広報は、着実に民間の動きを止めるのに一役買った。
 その後、根元匠復興相(当時)が13年8月末「子供・被災者生活支援法」法律本来の趣旨を無視して線量基準を設けず、実効性ある住宅施策なき「避難の権利」の保障とは程遠い中身となったことからもハナから被災者を救済する気などない政府の欺瞞は明らかであろう。

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