エッフェル塔を哲学する

497viewsecritureecriture

このエントリーをはてなブックマークに追加
エッフェル塔 (ちくま学芸文庫)

鉄の塔

  • ヨーロッパでは、大地から直接採取される自然の石が「土台と不変性の象徴」とされていた。

  • 住居というものが、破壊しない限り永遠に存続し、住人の平穏で安全な生活を実現するという意味合いを求められる限りは、石こそが建築にふさわしい材料だった。

  • ヨーロッパの古い町並みが例外なく石造りなのはそのためである。

  • しかしエッフェル塔の建造者ギュスターヴ・エッフェルは、塔の建造に鉄を使用した。

  • 自然からそのまま借りてくる石とは違い、鉄は大規模な工場で人工的に作られる材料であり、それ故にエッフェル塔の建造は、自然の精神性を根底に置いていた石材建築に対する、新たな価値観からの挑戦を意味していた。

  • そして鉄を建築材料に使うことが一般的になったことで、川などの障害物に頑丈な橋が掛かって人の行き来が容易になり、それに伴って交通手段も飛躍的に発展し、交通機関の発展は人々の生活の時間効率を向上させた。

  • 鉄を建築に使用することは、空間と時間に対する人類社会の技術発展の勝利の証となったのであり、それまでの古いヨーロッパの価値観に、「鉄と機械」という産業革命以降の新しい精神が取って代わったのである。

完全なるもの

  • 塔は見られているときは事物(対象)だが、人間がのぼってしまえば今度は視線となって、それまで塔を眺めていたパリを眼下の事物とする。

  • 塔は見る事物でありながら見られる視線であるわけで、それは能動態であると同時に受動態であり、見ることと見られることという世界の固定された区分を超越して自由に行き来できる、視線の両性具有とでも言うべき完全物である。

  • 己の立場を固定されずに自在に変換しうる完全物は、何者にもなり得ると同時に何者でもなく、それ故に無限の意味付けと解釈を可能とする。

パリの象徴

  • パリに存在する既存の記念碑は、ルーブル宮殿なら君主制を、凱旋門なら帝政を連想させる。

  • 純粋にパリそのものを象徴するのは、なんの使用目的も持たない、観光の対象以外の何物でもないという無益性を持ったものでなければならない。

  • そうして、エッフェル塔を訪れるということはすなわちパリを訪れることを意味するようになり、この塔はパリそのものになったのである。

無限の解釈

  • 高めようとする努力と夢見る希望にシンクロする「上昇」の象徴。

  • 骨組みから向こうが透けて見えるという鉄のレース織物に例えられる「軽さ」の象徴。

  • 二本の脚で立ち、足元に身を寄せるパリをいたわる「母親」の象徴。

  • パリの人間にとって最期の場所にふさわしいという発想まで呼び起こした、自殺の名所という「死」の象徴。

  • あらゆる想像と解釈を可能とするこの完全な塔は、人の思考の中で様々なものに無限に変換されている。
エッフェル塔 (ちくま学芸文庫)

エッフェル塔 (ちくま学芸文庫)

  • ロラン バルト,伊藤 俊治

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く