絶対音感の能力は、音楽家にとって万能の武器なのか? 「絶対音感」

1125views折笠 隆折笠 隆

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絶対音感

絶対音感とは、ランダムな音を聞いた瞬間にその音名が分かる能力。

  • 能力は絶対音感保持者によりまちまちだが、一般的には特別な才能とされる。生活音含めすべての音がドレミで聞こえる人、演奏会場の空調音さえ音符で感じる人もいれば、自分の担当楽器に限り絶対音感を持つ音楽家もいる。一方で、絶対音感を持たない一流音楽家も多い
  • 絶対音感はどのように獲得されるのか? 言語能力発達との類似性を考えると、覚えるなら幼少期と考えられる
  • はっきりしたメカニズムは分らないが、同一刺激の連続による脳の特定条件での強化(学習)と考えられる
  • 人間の耳は元々非常に鋭敏で、1ヘルツ前後の違いも聞き分けられる
  • 聴覚については不思議な例が観察される。出ていない音を聴いているように感じる(脳内で音を作る)ミッシングファンダメンタルと呼ばれる現象、音を聴くと色が見える共感覚など

日本では戦前に、絶対音感教育のブームが起きた。

  • 日本の子供は絶対音感保持者が多いと言われ、その理由を教育に求める見方がある
  • 園田清秀は1935年、絶対音感の獲得を目指す「絶対音早教育」を発表し大きな反響を呼ぶ。現場教師は子供が楽しんで音楽を学べないと反発するが、軍部は敵機音聴き分けのため絶対音感教育を支持
  • 軍国主義色が嫌われ絶対音感教育は一時的にタブーとされたが、戦後桐朋学園により復活。以降は幼児教育ブームに乗り、専門教室などで絶対音感の教育が行われる
  • ただし、公教育は移動ド唱法(キーが変わればドレミも合わせてずらす)、専門教育は固定ド唱法(ドレミの音は常に固定)で習う。絶対音感の子供は固定ド唱法でないと対応できず、苦しむケースも。音楽教育界はこの問題を先送りしてきた

絶対音感を持つ音楽家は、その鋭敏すぎる感覚と折り合いをつけていく。

  • ラの音(A音)=440Hzだという基準を教え込まされてきた絶対音感保持者は、「442Hzのラ」のような、基準からわずかでも外れる音を不快に感じ、演奏に行き詰まることさえある。「音が受け入れられない」のだ
  • だが、ラ=440Hzという基準はそもそも国や時代、環境(会場など)によっても変わる。彼らは苦しみつつもその事実を認識し、意識を切り替えることで自分が身につけた"絶対”を克服していく

絶対音感は演奏に不可欠、とはいえない。絶対音感にばかりこだわると、音楽の本質を見失う。

  • 指揮者の耳のよさと、絶対音感の鋭さは全く違う。指揮者が感じるのは必要な音を聴き分け、リズムやいい音楽を作るための流れを把握・理解すること。すべての音を正確に律義に拾うのではなく、経験をもとに聴くべき音・無視する音を瞬時に分類し統合するのだ
  • 絶対音感は、それだけでは音楽の豊かな広がりを捉えることはできない。他のさまざまな能力と結びついて優れた音楽に昇華させた時、それを生み出した才能の一つとして絶対音感がクローズアップされる、というのが正しい順序ではないか
  • コンピュータが音楽を奏でるようになったが、"人間らしい演奏”をさせる試みは困難を極めている。正確に音を刻むだけでは、感動する音楽はなかなか作りだせないのだ。ドレミの正確さのみでは音楽の本質には到達できない。学者の苦闘を見るたび、人間が作りだす音楽の奥深さを改めて感じる。
絶対音感

絶対音感

  • 最相 葉月

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