中国共産党・習近平政権の壮絶な権力闘争劇

462views飛立知希飛立知希

このエントリーをはてなブックマークに追加
中国共産党 闇の中の決戦

 本書は2014年ボーン上田記念国際記者賞を受賞した日経新聞記者の中澤克二氏が抉り出す、中国共産党・習近平政権の壮絶な権力闘争劇である。
 中澤氏は、冒頭から2015年8月に起きた天津の爆発劇は「習近平の視察を狙ったテロだ」とする戦慄の仮説を中国の有力経済誌「財経」のスクープで裏付ける。厳戒な報道規制でもみ消された不審火を「監視映像に残っており、天津市、国務院など上層部に報告されている」と報じたが、当局に無視された。しかしその直後、習の側近であるはずの黄興国が失脚する。国家主席の命の危険を防げなかった詰め腹を切らされたのだ。だがその犯人像とは元最高指導部メンバーで公安武装警察のトップの無期懲役囚、周永康だった。その後も地方視察の度に不審な動きが続いたためか、習の「反腐敗運動」は地方でも苛烈を極める。だが3月の全人代から風向きが変わった。習への権限集中、個人崇拝的な色彩、メディアへの締め付けなどで経済にまで悪影響が及び、李克強首相の反攻勢と「民心」争奪戦に火が点いたのだ。
 政権内での闘争を勝ち抜くことに神経を尖らせていた習に、フィリピンとの南シナ海を巡る仲裁裁判の「敗訴」が決定的となる。だが本書刊行後、ドゥテルテ比大統領は事実上、この判決を棚上げし中国との経済協力関係を優位にした。
 一方、16年3月末の米中首脳会談で習は、北朝鮮の“核ミサイル”に対抗する米軍の地上配備型高高度ミサイル迎撃システム(THAAD)に反対し、覚悟を持って米国を脅している。だが、9月に主催した杭州でのG20首脳会議の当日に北朝鮮が5度目の核実験を決行。北朝鮮は中国に事前通告したとみられ、ギリギリのところで習のメンツを立てた形だが、朝鮮半島の非核化という中国の方針に反逆していることに変わりない。北朝鮮を援助してきた中国の沽券に関わる問題である以上、THAAD配備反対には無理があり国連安保理の新制裁決議にも拒否権を発動できなかった習の焦りは大きい。
 習が最重要視するのは、プーチン露大統領との盟友関係である。英国がEU離脱の手続きを急かされ、トランプが次期米国大統領に選出された。国際政治学者のイアン・ブレマーが警鐘してきた「Gゼロの時代」がより具体性を帯びている。世界秩序の維持を主導するのは、米国やEUではなく中露両国の枠組みである。タシケントと北京での連続会談の隠れたメッセージはもはや米国への対抗意識からという意味づけだけに終わらない。
 翻って対日中国外交は如何なものか。16年6月深刻な中国軍艦の尖閣諸島の接続水域進入事件が起きていた。環球時報が伝えた中国側の主張は「日本の護衛艦が先に『黙契』を破ったため中国艦船も進入した」との趣旨だ。無論、この「黙契」など存在しない。尖閣の実効支配を確立している日本は、通常、海上保安庁の巡視船が対処しているに過ぎない。中国側の狙いは日本艦排除にあり、極めて危険な状態だった。
 中澤氏はこの事件を「米政府が“紛争“の平和的解決を安倍政権に働きかけるよう仕向けたい」という中国側のシナリオがあったと睨む。だが、もはやバトンはオバマからトランプに渡される。新たに変わった風向きを読まねば米国は中国を最大商売相手に据えて日本を見捨てかねない。
 結びとして「天津大爆発、最高指導部メンバーだった周永康への無期懲役判決、構造改革が進まず滞る中国経済—。一見、無関係なこの3つの事象は底流でつながっていた。」「それは13億人の民を束ねる習近平への権力集中と密接に関わっている。」と中澤氏はみる。今後ますます習近平の二期目は権力闘争が激烈化していくだろう。

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く