植物人間の妻帯者に思いを寄せるのは許されるのか?

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白河夜船 (福武文庫)

【白河夜船】

主人公である寺子は付き合っている岩永からの電話のベルははっきり違って聞こえた。
そんな岩永に岩子は「友達が死んだの」の一言を言いそびれて2か月になる。
友達のしおりと岩子は同じ部屋に2人で住んでいた。
そんなしおりは睡眠薬をたくさん飲んで、自殺してしまった。

しおりの仕事はお客とただ性交渉もなく添い寝することだった。
「一晩中寝るわけにはいかない。隣の人が起きた時私がぐうぐう眠っていたら価値がない、プロじゃない」
「寝息に息を合わせていくとうとうとと恐ろしい夢を見ることがある。この人の心の風景を見たんだわ」
そんな言葉を聞いて、寺子は「それはしおりの心の中の風景なのでは」となぜか口に出せなかった。

主人公は岩永が妻帯者であることを知っていた。
「岩永さんの奥さんはどんな人ですか?」
「植物人間なんだ。事故を起こして以来、1年入院している。だから、こんなふうに女の子とデートしたりできるんですよ、日曜に」
岩永は話したがらなかった。

「あの人と寝ているといつも真冬っぽい」
「あ、わかるわかる」
「話も聞かないうちからわかるわけないじゃない」
「だって私、プロだもの」
しおりは目を細めた。
「寺子を自分のものだと思うと、自分の立場とかがものすごく不利でしょ?だから、今のところは、あなたはとりあえず無なの、保留なの、ポーズのボタン押しているの、買い置きなの、人生のおまけなの」
「無って、どんなの。私、あの人の中でどんなところにいることになっているの」
「真っ暗闇の中よ」
しおりは笑った。

寺子はとてもしおりに会いたかった。決して会えるはずないのに遠回りして歩き続けた。次第に人通りは少なくなり、夜が濃くなってゆくように思えた。

寺子は岩永の電話のベルで目が覚めた。
午後の2時だった。
ついに寺子の超能力にもガタがきてしまった。

岩永の妻の家族の方は何が何でも生命を維持したいと望み、離婚して良いと申し出ているのであろう。彼は病院に行くたびに彼は「まだ生きているんだ」と思うと本気でつらくなり、たぶん、「死んでしまう」まで別れないのが自分なりのかっこいいだと思っている。そして、私のことを誰にも話せない。彼自身もすっかりいろんなことに疲れている。

岩永と寝ている時にしおりの夢を見て飛び起きた。
「あんまり嬉しくて目が覚めたくなかった。こんなところに戻ってくるなんてひどい、これはもう詐欺だわ」
と心配した岩永に告げ、涙ぐんだ。
「わかった、君はもう疲れているんだろう。そうだ、来週は花火大会じゃないか。川の方へ行こう、な?」

何も変わらず2人の状態は何一つ変わっていないけど、こんな小さな波を繰り返しながら、ずっと彼といたいと寺子は思った。
何だかついさっき目が覚めたばかりみたいで、何もかもが恐ろしく澄んで見える。
そう思うと突然、何もかもが完璧すぎて涙がこみ上げてきそうになった。
「あ、見たか?今、ちらっと見えたぞ!」
子供のようにはしゃいで寺子の肩を岩永がゆすった。
互いの腕をしっかりと組んだままいつまでも、わくわくして次の花火を待ち続けた。

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