「俺は、彼女が嫌いだった」

586viewsひかげぼん発掘ひかげぼん発掘

このエントリーをはてなブックマークに追加
聲の形(1) (少年マガジンコミックス)

            「西宮硝子。俺は彼女が嫌いだった」

あらすじ

明るく楽しく大冒険、がモットーの石田将也(いしだ しょうや)
耳の聞こえない転校生の少女、西宮硝子(にしみや しょうこ)
二人の出会いが教室を、学校を、そして将也の人生を変えていく。

ものがたり

「痛いかどうかなんて、跳び込むまでわかんねぇだろ」
 いたずら好きで、いつも悪ふざけをしては怒られていた小学生の将也。
 その日も度胸試しで川へ跳び込み、仲間たちと笑いあっていた。
 将也は退屈を何よりも嫌っていた。ガンジーが何者なのか、水槽の水がバケツ何個分なのか、人類の進化の過程だって、どうでもよかった。将也が一番知りたいことは、どうすれば退屈でなくなるかだった。そして彼は、毎日わずかに退屈へ勝利してきた。
 だが――。
「あ、俺、今日からやめるわ」
「このへんでやめとこうってこと。度胸試し」
 時間や成長が、将也から仲間を引き離していく。
 このままでは退屈に負けてしまう。
 そんな焦燥にかられる将也の元に現れたのが、転校生の西宮硝子だった。
『はじめまして。西宮硝子といいます』
 教壇に立ち、そう書かれたノートを掲げる彼女は――耳が聞こえなかった。
「変な奴!!」
 かくして、二人の日常が始まる。
 西宮がいる毎日は、まるで今までと違った。クラスメイトが当たり前にこなしていることを、まるでできない。ノートを使わないとコミュニケーションがとれない。教科書の朗読もうまくできない。音楽の授業だって。西宮は将也にとって格好の『的』となる。
「とにかく、仕方のないことはある」
 教室に呼ばれ、担任から注意を受けた将也。でも、彼は納得できなかった。教えてあげる手間。授業が遅れること。音痴に付き合わされること。本当にそうなのか? あいつは異文化で育った異星人というだけではない。俺のクラスに実害をもたらす邪魔者だ。あいつのせいで合唱コンは散々だったし、当たり前の日常は破壊され、佐原だって学校に来なくなった。西宮はこのことに気づいているんだろうか? 手段は何でもいい。事実を伝えて、何とかしなければ――初めは好奇心旺盛だったクラスメイトも、やがて将也のようによくない方向へまとまっていく。
『合唱コンおめでとう♪ 西宮のおかげで大賞逃したよ! オンチは歌うな!』
 ある朝、そう書かれた黒板を前にして、西宮は泣きも怒りもしなかった。
 将也は興味が出た。このまま続けたら、彼女がこの先どうなるのか。
「ナメクジがいたら塩をかけるし、ハトがいたら追いかける。アリなら進路を正し、猫なら落書きをする。西宮がいたら水をかけ、追いかける。進路を正し落書きをする」
 エスカレートしていく残酷な嫌がらせ。しかし、それは突然に終了を迎える。
「総額170万円ほどするらしいです」
 将也たちが西宮から奪っては遊んでいた『補聴器』が発端だった。
「ッオイ、石田ァ! お前だろっ立てよオラアァア!」
 学級会で担任から名指しを受けたのは、将也だけで。
「なんでさっきから俺だけが悪いみたいになってんの!? みんなだって笑ってたじゃん!」
「石田!! 今はお前の話をしてるんだぞ!」
「謝れよ石田」「サイテー」
 ――その日から、将也の毎日は変わった。西宮にしたことがすべて自分に返ってきたのだ。
 西宮は転校していなくなった。日常から静かに立ち去った。
 将也は過ぎていく時と孤独のなかで、自分がどれだけ愚かだったかを知る。

 やがて高校生になった将也は、再び西宮硝子に会おうと決心するのだが……

感想

剣も、魔法も、異世界も登場しない――石田将也や西宮硝子、そしてその仲間たちの成長や変化を少しだけおもしろおかしく、時には残酷に包み隠さず描いていく、シリアスで現実的な物語です。将也やその仲間たちが西宮をいじめぬいていく日常。そして西宮が転校し、自分の過ちに気づいていく将也の変化が、まるでリアルな人生を見ているようで胸が苦しくなります。
 『最悪』から少しずつ変化していく二人の日常が、今後も見放せない作品です。綺麗ごとや情熱だけはどうしようもない、とにかく繊細でリアルな物語を、ぜひ読んでいただきたいです!

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く