穴にはいってこそ、その穴を作った人、その時代と対峙することができる

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ニッポンの穴紀行 近代史を彩る光と影

穴があったら入りたいという言葉もあるように、地下の穴という空間には世の流れから離れて逃避する場所として認識されている。しかし穴を知ることは別の時代に触れる入り口であると私は思う。

本書で取り上げている穴

第一章 軍艦島(長崎県) ——–捨てられた集合住宅と穴
第二章 釜石鉱山と東北砕石工場跡(岩手県) ——–宮沢賢治ゆかりの穴
第三章 新内隧道と狩勝隧道(北海道) ——–開拓の苦闘が印された穴
第四章 国立国会図書館(東京都) ——–書庫になっている地下8階までの穴
第五章 滋賀会館地下通路(滋賀県) ——–文化施設がコラボする宙ぶらりんの穴
第六章 人形峠夜次南第2号坑(岡山県) ——–怪しい光を発する希望の穴
第七章 黒部ダム(富山県) ——–高熱隧道とクロヨンの穴
第八章 日韓トンネル(佐賀県) ——–全長200キロの穴
第九章 吉見百穴と巌窟ホテル(埼玉県) ——–親子3代の夢の穴
第十章 諏訪之瀬島(鹿児島県) ——–ヒッピーと巨大資本の抗争史
第十一章 友ヶ島第3砲台跡(和歌山県) ——–使われなかった要塞の穴
第十二章 糸数壕と山城本部壕(沖縄県) ——–沖縄戦の傷痕が残る穴

あんな穴こんな穴(1)

穴は物理的な穴だけでなく、そこにかかわった人の思いを見るものに伝える。吉見百穴では岩窟ホテルが建設途中でその姿をさらしている。建設開始は明治37年、親子三代150年かけて間口23mの3階建てビルを掘削により造ることが当初の計画である。初代の息子は夭折したが、それでも彼は折れなかった。3歳の養子をもらってきて幼少の頃から「帝王学」を叩き込んでいく。「継ぐんだよ」くりかえしくりかえしそう言い聞かせて育てたのであった。著者はこのような話を聞いて穴にも入り、掘削にかかわった人物の執念を体感したようだ。

あんな穴こんな穴(2)

日韓トンネルはおそらく将来「未完の穴」として残ってしまいそうな穴である。日本と韓国をトンネルで結ぶという夢のような話であるが、著者は現地で実際に掘り進められたトンネルと関係者の話を取材してきている。夢のような話でも実際に掘られた穴から強烈な迫力と説得力を感じたと著者は言う。建設に7年で10兆円という具体的な数字が出され、各種のデータが関係者から説明され、未完成とは言えその具体化した姿として穴を見ているのである。

感想

私は東京で穴を掘る場所を計画することを仕事にしている。具体的にいえば上下水道の新設、改良の仕事である。都市開発が極度に進んだ東京の地下には種々のインフラで混雑しており、新たな改良の余地を探し出すことは困難を極める。インフラの地下埋設図を見ながら検討していると、それぞれの時代背景や地域の事情、苦心した点が見えてくるから不思議だ。穴を本職とする私も、本書をお勧めする。

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