5人の少女を手にかけた殺人犯が、今ものうのうと娑婆にいる。これも現実。

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殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 栃木県足利市と群馬県太田市という隣接する2つの地域、この半径10Kmという限られた地域の中で、17年の間に5人の少女が姿を消した事件を追うドキュメントです。

 5人の少女のうちのひとりを誘拐・殺害したとして実刑判決を受け服役していた男性が事件から17年後に釈放され、再審ののち無罪となった、この報道は記憶にあるかと思います。それが2009年。冤罪であることもさることながら、その後の警察・検察・司法関係者の対応が問題視され、さらに依然として再捜査が行われていない、というおまけつき。
 そういった問題点を挙げながら「一番小さな声を聞」こうと、今なお孤立奮闘しつつも徐々に味方を増やしながら、でもまだそのゴールは程遠く・・・と調査報道の最前線を突き進まれている清水潔氏の力作です。

日本を動かす報道特番

 そのきっかけとして著者が調べ始めたのが未解決事件、そうして浮かび上がってきたのが北関東で連続していた幼女連続誘拐事件だった。半径10Km円内で5人の少女が誘拐、殺害あるいは行方不明。犯行手口や被害対象は酷似しており、同一犯と考えてほぼ間違いなさそうである。
 しかし。
 この5件のうち、1件がすでに起訴され、犯人が捕まっていた。
 それが前述の男性が犯人として逮捕された「足利事件」だった。3件の誘拐事件で起訴はされたものの公判維持は不可能ということで2件が不起訴。「連続誘拐殺人犯」として世間に晒され、逮捕された男性は結局1件の誘拐殺人で起訴され、無期懲役の判決を受け服役していた。

 しかし、調べれば調べるほど、男性が犯人であることは「ありえない」んじゃないかという疑念が強くなる。それを覆すことができる唯一にして最大の難所がDNA型再鑑定だった。

DNA型鑑定 123マーカー その精度

 男性の自白が強要のもとに行われたでっちあげであることの裏をとる一方で推し進めていたのがDNA型の再鑑定を依頼だ。成果は実り、結果はなんと「不一致」。しかもそこから急転直下の釈放劇へとつながっていく。ここから再審、公明正大な無罪へとやっと正道を進めるかと期待したのもつかの間、検察は無情な意見書を提出し火消しにかかる。
 要約するなら、この件に関するDNA型鑑定の結果については証拠として深く触れずに、むしろ無罪とするんだからもう深く考えないでいいじゃないですか、と真実追及を避けたのだ。

 著者はさらに、その後ろに「ある事件」の影を危惧する。その事件も足利事件と同様のDNA型鑑定を用いて検出した鑑定結果を根拠に裁判が進み死刑が確定、さらにはその刑はすでに執行されていた。つまり、同じように精度の不確かな鑑定によって冤罪を作り出してしまった、どころか死刑まで・・・。

「ごめんなさいが言えなくてどうするの」

 上記は被害者遺族がDNA再鑑定の協力を求められた際に検事に訴えた言葉だ。
 結局はすべて、ここに集約されるんだと思う。
 誤認逮捕、違法な取り調べ、杜撰な鑑定、「真実を見つけてくれる」という市民の期待を180度裏切る司法、それらすべての関係者には「ごめんなさい」の精神が欠けている。もちろん、謝ってすむ問題ではない。しかし、謝らなければ、振り出しに戻さなければ、進まない話でもある。

 そうしてそこからまた、「一番小さな声を聞いて」いかなければ
 5人の少女たちは、どこにも落ち着くことができないではないか。
 

感想

 今さら警察に正義があるとは思っておりませんが、しかしせめてあってほしい真実さえないってんなら、もうなにを信じればいいのやら・・・と暗い気持ちになりました。ただ、本当に真実がほしいのならただ待ち望んでじっとしているのではなく、なにかしらの行動を起こさなければいけないんだな、ということも今回、清水氏に教えていただいた気がします。
 真犯人を清水氏は知っている。だとしても、それを教えろと詰め寄るのは筋違いで、私たちはそういうものをまっすぐに追い求められる世間の、社会の土壌をもっと豊かにしていかなければいけないのだな、と。

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