人の暮らす場所を作る、そして人の暮らしを変える

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身近な土木の歴史―文化の演出者たち

自然と人とのかかわりの歴史からの、土木の本

著者も前書きで述べているように、本書は構造物、技術的体系で書かれた、淡々とした記述となりがちな土木史の本ではない。また技術的な革新性に重きを置いて書かれた専門書でもない。自然と人とのかかわりやその中で必要となった土木構造物のうちで重要なポイントとなった構造物が取り上げられており、副題は「文化の演出者たち」である。

人の暮らす場所を作る

本書の前半では戦国~江戸初期に行われた河川改修で、暴れ川をコントロールすることに成功し、人と川とが共生できるようになった歴史の記述に重きを置かれている。戦国時代というと国同士の合戦のシーンばかりが思い浮かぶが、国を支える人や食料生産はどうしても必要であり、治水への強い願いがあった。その中で治水に巧みなリーダーはやはり民衆の信頼を得たり、国を富ますことに成功している。例えば武田信玄によるいわゆる「信玄堤」の現代においても立派に機能するほどのその姿が本書で紹介されている。豊臣秀吉は淀川改修、加藤清正は白川(熊本)、佐々成政は常願寺川といったように優れた武将に治水技術は必須だ。
徳川三代の歴史は土木事業への並々ならぬ注力の歴史である。家康は今よりももっと海と陸の境がはっきりしない湿地だった江戸に入ってきて町割を決め、大地を切り崩した土砂で埋立や盛土を行った。秀忠の時代には神田川が整備された。御茶ノ水駅付近の深い谷底の神田川も人の手によって開削されたものだ。このような土木事業を経て江戸は家光の時代にやっと今のような形となった。本書を読んでいると現代の東京の地形や川、道路が江戸時代に整備された都市骨格のもとに形成されていることがわかる。徳川三代の土木事業がなければ江戸幕府も、首都東京もなかったであろう。

土木が変える、人の暮らし

本書は東京だけでなく、「第六章 地域開発に思いをはせ」では京都の近代化に貢献した田辺朔郎と琵琶湖疏水の取り組みが紹介されている。京都が明治維新により一時的に荒廃したことも、琵琶湖疏水の美しい構造物が今も機能していることも、土木工学の影響力を端的に示す一例である。

土木について考えてほしいこと

土木工学に夢を描き、志す学生も随分と減った。強い意志で生活環境改善に取り組みたいという公務員志望の若者もなかなか見かけなくなってきている。また土木事業の高額な建設コストや自然環境を改変することの「罪」の方が、報道される中の大きな部分を占めるようになった。そちらの方が人に受け入れられやすい「土木のイメージ」となった。でもそれでは土木工学は正しい道を歩まないし、社会基盤の維持も立ち行かなくなるはずだ。
社会基盤の担い手として人の暮らしに密接な土木工学が、本来の正しい視点でその効用を考えられなくてはならないと思う。

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