「拉致問題」を政治利用して総理まで駆け上がった安倍首相の陰で闘ってきた被害者たち

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拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々

 本書は元拉致被害者家族会事務局長の蓮池透氏が、2002年の小泉純一郎首相(当時)の訪朝で明らかとなり、十数年が経過した今も北朝鮮の「拉致問題」にほとんど進展が見られないことに憤り、日本側にも対応のまずさがあったのではとその思いを赤裸々に綴った書である。
 蓮池氏の実弟、薫氏がいなくなったのは1978年7月31日。同時期に横田めぐみ氏を含む行方不明者の事件が起きていたが、警察も、政府も、マスコミも、世論も動かなかったという。兄の蓮池氏らは1997年元北朝鮮の工作員だった脱北者の証言を通じて、横田めぐみ氏が北朝鮮によって拉致されたという情報がもたらせたことを契機に同年3月25日事件発生からそれぞれの不明者を持つ「家族会」を初結成。
 現安倍晋三首相は、小泉訪朝時、官房副長官として同行した。安倍氏は拉致問題を政治利用して総理大臣にまで上り詰めたと蓮池氏は見る。第一次、第二次安倍内閣で講じた手段は経済制裁と拉致問題対策本部の設置のみだけだからである。これが「あらゆる手段」に相当するのなら羊頭狗肉だというのである。
 世間では北朝鮮に対して当初から強硬な姿勢をとり続けてきたと思われている安倍首相は、実は平壌で日本人奪還を主張したわけではない。拉致被害者の帰国後、むしろ一貫して彼らを北朝鮮に戻すことを主張していた。薫氏らがその意向を拒むようになったのを見て、安倍氏はその流れに乗っただけであり、政治的野心のまま総理への道を駆け上がったとしか思えないと蓮池氏は断じる。
 拉致問題は定義が曖昧である。外交交渉では、一方だけが得をして前進することはありえない。 日朝首脳会談実現の背景には南北の和解があった。外交交渉には北朝鮮の側にもメリットが必要だ。将来的に日朝国交正常化すれば、北朝鮮側にも得になるという大きな絵を描く必要がある。
 北朝鮮側からすれば日朝首脳会談で、金正日という絶対的権力者が拉致を認めて謝罪までするという大失態を晒したのに対し、日朝関係は改善どころか悪化の一途を辿ってしまった。交渉実務者たちは粛清された可能性がありこの後さらに悪化の一途を辿るとも考えられる。だが安倍政権は「家族会」にも「救う会」にも支持されているという他の政権にはない有利な点もある。安倍政権こそ北朝鮮問題を解決すべきだとジャーナリストの青木理氏は蓮池氏との巻末対談の中で指摘する。
 しかし蓮池氏は憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を可能にし、なし崩し的に安保法制を制定、自衛隊を地球規模で派遣できるようにする…こうした、強い意志を表明するため、2015年の訪米時に上下両院の議場で演説して2015年安保法制を強行成立、2016年施行させた安倍氏に、「拉致問題」に対してこれほどの気概があるとは感じられないと疑問視するのだ。
 拉致問題は米国という北朝鮮を巡るキープレイヤーによっても翻弄されてきた。日朝首脳会談から後、ブッシュ政権の国務次官補だったケリーが北朝鮮を訪れ、濃縮ウラン方式による核開発問題を追及。だが米国は北朝鮮を「テロ支援国家」のリストから外した途端に無関心になった。米国のご都合主義の中で日本の拉致被害者たちは日米関係を最重要視する安倍政権に政治利用されてきただけと蓮池氏は憤りを隠さない。
 横田めぐみさん「死亡」の情報を横田早紀江氏は「信じない」。青木氏と蓮池氏は早紀江氏がめぐみ氏を取り戻す運動そのものが早紀江氏の生きがいになっていると言及。娘を奪われた高齢な母親になんという酷い仕打ちをしてくれたのだと北朝鮮のみならず、安倍政権の罪深さを感じずにはいられなくなる。

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