宮崎駿監督の口絵が面白い。

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幽霊塔

舞台は長崎。先ごろ地方裁判所の検事総長を辞した叔父が購入した時計塔(別名「幽霊塔」)で怪事件が重なるように起こる。
主人公は北川光雄という高等遊民で、叔父の依頼でこの時計塔を検分しに来た時に出会った野末秋子の凛とした美しさに打たれ、次第に愛し始める。
ところがこの時計塔には秘密が宿っており、その秘密の中心人物・秋子も巻き込まれながらの殺人事件、秋子を中心とした虚々実々の恋愛駆け引き、過去へ遡る秘密の露見等々が展開される。
光雄という男性は、20代中ごろから後半くらいなのだろうが、それほど鋭くないオツムではあるものの、義侠心と勇気と強い身体を持ち合わせた好人物に描かれている。
それに比して、栄子という光雄の元・許嫁(秋子に意地悪をしているうちに、突然いなくなり、首なし死体で発見されるも、それは栄子じゃない、ということになって…)の我が儘、ひねくれた心、意地の悪さは並大抵のものではないのだが、その栄子に対してさえ、時に光雄は憐憫の情を持つのだから人がいいにも程がある。
従って光雄は探偵にはならない。長崎県警の森村刑事が鋭い探偵として物語の半ばから登場するが、それも狂言回しにすぎないし、最後は事件の解決にはかかわらない。
事件の顛末は秋子を中心に据えて光雄の直情径行的行動力によってダイナミックに展開していき、時計塔の秘密と隠された財宝、そこに至る道のヤヤコシさ、などが味付けとなって大団円を迎える。
最後はめでたしめでたしになるのだけど、時計塔の精密なカラクリがそれほどつまびらかにされるわけでもないし、探偵は途中でいなくなるし、犯人たる人物は猿と対決してあえない最期となるし、その猿を飼っていた人物も途中でいなくなるし、などいろんな要素が盛り込まれるものの、何となく消化不良気味なのは、時代を考慮すれば仕方のないことなのかも知れない。
物語は常に思わせぶりたっぷりに展開される。「…これが後になって○○となるとはその時は分からなかった。」「この時、○○していたらあんな事件は起こらなかったかもしれない」 などなど、中盤からは何度も繰り返しこのフレーズがでてくるものだから、先が気になると言えば気になる、ちょいと鬱陶しいといえば鬱陶しい。多分、当時はこうやって展開させることで読者の興味を持続させていたのだろう。

岩波書店の広告に江戸川乱歩の『幽霊塔』の発売が告知されていたのを見て、「なんで今さら乱歩さんのしかも1冊だけ刊行するのかなぁ?」と思っていたら、宮崎駿さんがカラー口絵を…、という宣伝!!
購入後、しげしげと眺めてみるに表紙もさることながら、やはり口絵がなかなかすごい。
いや、あれは口絵とは趣が違っている。
宮崎さんが60年前に出会った『幽霊塔』とのエピソードが漫画で描かれる。その幽霊塔を宮崎流にイラスト化したものはまさに宮崎ワールド。「ルパン三世 カリオストロの城」のルーツがこの『幽霊塔』にあるというのも納得だ。映像化したらさぞ面白いだろうなぁ、なんて思ってると突然、「映画にするならこの位の方がイイと思う」というセリフが挟まれる。宮崎さん、映画にしたいんじゃないの? と思っていると、欄外に「えいがはつくりません」と書いてあって…。けど、そのあと、絵コンテで描かれる幽霊塔を見ると、余計にアニメにしたらどうだろう…、と思わされる。
1ページ毎に「幽霊塔」へのオマージュがギッシリ詰め込まれた口絵は、よくよく見ないといけないが、見れば見るほど、読めば読むほど、面白い。この口絵だけで16ページもあるが、本編を読んだ後にもう一度口絵を見ると、面白さが倍増する。

感想

乱歩作品を耽読されている方も、ワタシのようにほぼ初読みの者も、16ページの口絵は見てみると面白い。ごちゃごちゃしていて最初はとっつきにくいが、見ている内に面白くなってくる。それがこの本の一番の楽しみかもしれない。
ちょっとばかしエロく、ちょっと以上にグロく、おどろおどろしい雰囲気と謎の多い建物、絶世の美女には陰と人に言えない秘密・悩みがあり、それを知る人物の脅しなども物語を彩るのだが、もともとの出版は1937年というから昭和12年。戦前の昭和ロマン漂う作風なのかもしれない。

幽霊塔

幽霊塔

  • 江戸川 乱歩

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