1.背景・要約
1969年、経営学者というより、社会生態学者としてのドラッカーが59歳の時に上梓した「The Age of Discontinuity」の日本語訳です。
本書では①新技術/新産業、②世界経済、③社会と政治、④知識、の4つの分野での断絶(大きな転換期の前兆)について論じられています。
本書で登場する重要なキーワードは、「知識労働者」「オートメーション化」「グローバル経済」「企業の社会的責任」「民営化」「多元社会」「継続教育」(社会人学生)などです。
2.本書の3つのポイント
ポイント(1) 新技術とは平凡なものの新たな組み合わせである。
ドラッカーは新技術というのは、新しい“知識”ではなく新しい“認識”であると考えており、既存の平凡なものの組み合わせであると説明しています。
そして、この新しい認識を生み出すのが真のイノベーターであるとしています。
「イノベーション」と聞くと発明や技術領域での大発見など、技術者(エンジニア)・自然科学の研究者といった理系の方々が担うものと考えがちですが、必ずしもそうではないということです。
ドラッカーは自動車業界において大量生産、大衆市場、大量販売というビジョンを生み出したヘンリー・フォードこそ真のイノベーターであると述べています。
ポイント(2) 覚悟がある者は組織(会社)を道具として利用できる。
“・・・今日の組織社会では、われわれに対し、まったく新しいことを学ぶことを求める。すなわち組織を目的意識と責任をもって利用することである。この責任とそこに伴う意思決定から逃げるならば、組織が主人となる。逆にこの責任を引き受けるならば、われわれが自由となり主人となる。”
「第11章 組織社会に生きる」267頁
責任と目的意識を持つ覚悟がある人は、「会社から使われる人」ではなく、「会社を使う人」になれるということです。
この考え方には同意します。私は「会社への忠誠心」という表現は非常におかしいと考えています。
私たちが敬意を払うべき、感謝を伝えるべきは、経営陣、上司、同僚といった共に働く人々、お客様、取引先の方々といった「人」なのであって、「会社」などという得体のしれないものではないはずです。責任を背負う覚悟のある方は「会社」をひとつの道具としてどんどん自分の好きなように使うべきだと思います。
ポイント(3) 一流を目指さなければならない、無難では役に立たない。
ドラッカーは経済の基盤が肉体労働から知識労働へと移行としていく中で、仕事の意味が変化していることに着目しています。
肉体労働者・・・仕事とは生計であり、苦しみである。
知識労働者・・・仕事は自己実現、挑戦、貢献である。
高等教育を受けた知識労働者は、自らの専門的な強みをもって何事かを成し遂げることを欲するとドラッカーは考えています。そして専門的な強みをもって仕事に取り組む者は、「そこそこ」といった無難な仕事ぶりではなく、一流を目指さなければいけないとしています。社会が知識労働者に対しては一流を要求するのです。
プロの専門家として真っ先に思い浮かぶ医者の例を考えてみれば分かりやすいと思います。もし大きな病気にかかり大がかりな手術を受けなければいけない時、そこそこな医者と一流の医者のどちらを選びますか?
人様の命を扱う仕事だからという前提はあるにしても、「医者は自らに厳しく一流でなければならないが、サラリーマンは適度に手を抜いてそこそこでも良い」などという理屈は通らないのではないかと思います。
オススメ度 : ★★★★★☆
ポイントとしては挙げませんでしたが、1979年にイギリス首相の座に就いたマーガレット・サッチャー(通称”鉄の女”)は、本書で取り上げられている民営化の概念を参考に、自らの政権下で国営事業の民営化を進めており、産業界のみならず政界にも大きなインパクトを与えた本です。
ドラッカーは「直面する断絶のうち最大のものが、知識と地位の力の変化である」と述べており、知識労働者に多大なる期待を寄せています。
「働くことに意味が見出せない」「仕事にむきになるのは馬鹿らしい」と思っている人にこそ読んで欲しい1冊です。