前日譚

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神様のカルテ0

『神様のカルテ」は既に3巻が出版され、映画化もされている。
この「0」は前日譚だ。つまり、一止が医学生で医師国家試験の勉強をしている時から、研修医として本庄病院で勤務するようになる頃までが描かれているわけだ。
4つの短編で構成されている。国試受験前夜の学生たちの悲喜こもごもの様子を描いた一話目。後に一止が就職することになる本庄病院が24時間365日診療を掲げながら、その内部では医師vs事務長のバトルが演じられる様子とともに、冷徹に見える事務長の意外な一面が描かれる二話目。早くも“引きの栗原”と命名されながら、本庄病院で数々の「はじめて」を経験する三話目。そして、これまた後に一止の奥さんとなる山岳写真家の榛名(はるな)が冬の山で遭難しかかった50代男性を強く助ける四話目と、少しずつゆるく繋がりをもって展開されている。
一止は既に一止であって、彼が本庄病院に提出した履歴書は夏目漱石で覆い尽くされているようだ。採用の可否を判定する会議で、その点を問題視する人もいたが、第三話で一止の指導医となる大狸先生が「こいつはいい医者になると思いますよ」と締めくくる。
一止が初めてインフォームド・コンセントととして「がん」を告げる患者=國枝さんは、一止に対し、医者と患者、というだけではない何かを感じて接してくれる。國枝さんの奥さんは、自分たちの間には娘しかいなかったけど、栗原先生を息子のように思ってたのではないか、と後に言う。
そして榛名の強さ。体力的な強さだけでなく、精神的な強さについては、彼女の生い立ちが語られることで示される。もちろん、それは決して楽しい物語ではないが、そこで培われたものが、彼女の「優しさ」となって開花していることが伺われる。
同時に、そんな榛名が惹かれる、というか一緒にいて安心できる、彼のいる場所に帰りたいと思うような人物が一止であるのは、一止のもつ人間的な「優しさ」を示しているのだろう。ただし、その「優しさ」を持つ人は苦労すると、國枝さんも指摘する。そして「先生は苦労人だ」と太鼓判まで押してくれる。

テイストは既刊の3巻と同じなので、その内の1つでも読まれた方は楽しめると思う。
ついでながら、國枝さんという方は元・高校の国語の先生という設定になっている。國枝さんの家の一部屋は壁が内外の作家たちの全集で覆い尽くされている。「本はよいですな。」から始まる一止と國枝さんの会話が味があってなかなかいい。

感想

医療の世界のことは患者側の身としてはわかりかねることなので、この小説で描かれているようなことが実際にどれほど即しているのかは判断のしようがない。
ただ、一止のようなお医者さんがなるべくたくさんいてほしい、と思うばかりである。

神様のカルテ0

神様のカルテ0

  • 夏川 草介

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