対話なき欧米の武力行使では解決できないグローバルテロリズム 

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イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北 (集英社新書)

 著者は本書を書くにあたり、始めに本書のタイトルについて、こんな断り書きをしている。
 「これはムスリム(イスラム教徒)が好戦的だという意味ではありません。読者のみなさんは意外に思われるかもしれませんが、元来、ムスリムは戦争に向いていません。」
 その上で著者は欧米諸国の「テロとの戦争」が夥しい数の中東の市民を犠牲にしてきただけの敗北戦争であることを指摘し、今日のイスラム国の台頭は、これまでにイラクやシリア、そしてイスラム世界の各地で積み重ねられてきたムスリムに対する抑圧や殺戮の結果であって、原因ではないと断言する。
 イスラムの思想には、欧米人やユダヤ人を殺害しろなどという教えはない。キリスト教徒やユダヤ教徒を殲滅せよという教義もない。しかし、「テロリスト」や「過激派」を掃討すると称して、爆撃機やドローン(無人攻撃機)による度重なる誤爆で子や母を殺すような残虐なことをした場合には、命を賭けて戦う戦士を生み出してしまうと著者は説く。
 本書の中で、著者はトルコの欧米に与しない軍部や政治のあり方から学ぶべきことは多いと具体事例を挙げて解説している。
 トルコは1991年の湾岸戦争、2001年のアフガン侵攻、2003年のイラク戦争、いずれも米国からの強い参戦の要請を拒否している。さらには、イスラム国を攻撃する現在の有志連合軍への参加も拒んでいるのだ。
 また、日本はこのようなイスラム世界に対し、日本国憲法第九条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」こそ、現代のイスラム世界で起きているカオスのような戦乱を平和に導く唯一の精神であり、実効性の高い規範でもあると著者は強調する。
 というのも、2012年にタリバン政権、カルザイ政権時代の要人らが初めて来日し、同志社大学で和平会議を開いたためだ。
 タリバンが日本に来た最大の理由は、日本がアフガニスタンには軍を派遣していなかったからであり、これまで国是として護られてきた日本の誇るべき平和憲法第九条に則って軍を派遣しない限り、現地で活動する日本政府職員もNGOスタッフも攻撃のターゲットにされるリスクははるかに低くなるためだ。
 会議では、カルザイ政権をはじめ、すべての勢力が、外国軍の撤退なくして和平はないということで一致する成果を得たという。
 本書で繰り返し説かれているのは、イスラム=リテラシーがあまりに欠如していること。ムスリムが守っている規範は日本や欧米の法観念とは異なり、「コーラン」や預言者ムハンマドの言行録「ハディース」に典拠のあるものは、国際社会の時代の変容と共には変わらないものだという。イスラムの専門家にインタビューしているジャーナリストが「アラブ」と「ムスリム」の区別もついていない光景に著者は愕然とし、国家のキャリア外交官による確度の高い現地情勢分析が部局によるセクショナリズムの障害で受け入れられなくなることを問題視。ジャーナリズムや教育機関の人材育成が急務だと対話なき武力行使ではイスラム国を始めとする、グローバルテロリズムの問題を解決できないと欧米による中東政策を著者は批判している。

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