長野まゆみさんの描く男同士の恋愛はこんなにも潔白で慎み深い

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紺極まる

帯紙より

「先生は真木のことを好きでしょう。なんとなくそんな気がする。」

希(のぞ)んでは不可(いけ)ない。だけどほんとうに欲しいものは――。
長野まゆみが描く、哀しみさえも甘美な十代の日々。

あらすじ

突然、妻から離婚届を突きつけられた予備校講師の川野は、家賃の高い3LDKの部屋から新しいマンションへ引っ越すことにする。
賃貸の仮契約を結んだまま、本契約を結ぶ時間を取れないまま引っ越し当日を迎えた彼は、なりゆき任せで鍵も持たずに新しい部屋へと向かう。しかし、そこにはすでに浪人生の真木敦が住んでいた。
どうやら詐欺にあったらしいと認めた川野だったが、すでに敷金礼金や一ヶ月分の家賃、その他諸々の金を振り込んでしまっており、新たに部屋を探そうにも資金がなかった。加えて、真木の可愛げのない態度と恵まれた境遇が気に喰わない。こうした理由から、彼が強引に部屋に転がり込み、奇妙な同居生活が始まったのだが……。

構成

本書は表題作の「紺極まる」「五月の鯉」「此の花咲く哉」の三本立てとなっている。三作とも話は繋がっているのだが、「紺極まる」は川野と真木の関係に、残りの二作は真木とその想い人である浦里に焦点があてられている。「此の花咲く哉」は、真木がT大に合格した日にかけた浦里との電話の内容が、見開き1ページくらいにまとめられている後日談のようなものだが、二人の今後について想像力を掻き立てられる意味深な内容となっている。

真木敦の魅力

この本の読みどころは、なんといっても真木敦の魅力的なキャラクターにある。
常識はずれにフレームの太い額縁メガネと「外相御回し風」の服装、前髪は中途半端な位置で切り揃えられ、はっきり言ってめちゃくちゃダサイ。川野の言葉を借りれば「上京したばかりの学生であっても、まさかこれはないだろう、というものを、ことごとく選んで」身につけている。
政治家の孫らしく育ちは良く、食事の作法もよく躾けられている。
ところが、「なんだ、ダサイお坊ちゃまの浪人生か」と油断して読み進めると、後で痛い目に遭う。
丁寧な話し口調に反して、真木の言葉は鋭く冷淡だ。打ち解けるにつれて、その毒舌っぷりは程度を増してゆく。
一晩の寝床を貸してくれと頼む川野に台所の床しか貸さず、翌朝は足で踏みつけて起こすというドSっぷりも披露してくれるサービス精神には感服。
川野にはそんなふうに徐々に素顔を見せ始めるのだが、予備校(偶然にも川野が働く学校だった)では自ら人を寄せつけない雰囲気を放っている。川野ともあくまで他人行儀にしか接しようとしない。
その理由を知ったとき、真木という少年の抱える哀しみに触れて、読み手はきっと胸の奥に鈍い切なさを覚えることだろう。

男同士の恋愛はこんなにも潔白で慎み深い

男同士の恋愛だからと侮ることなかれ。抑えきれないほどの情念を抱いておりながら、想い人を傷つけたくないがために、ぐっと感情を堪える真木。その姿に、『恋愛とはこんなにも潔白で、慎み深いものなのか』と、ある種の感動を覚えずにはいられなくなる。

小料理屋で出てきそうな料理の数々

  • 昆布を敷いたたっぷりの湯の中で煮た湯豆腐
(酢醤油を数滴たらし、刻み海苔と山葵でいただく)
  • 鉄鍋で炊いた白ご飯
(普通に炊くよりも風味・甘味が引き立つ)
  • 夏野菜の寒天寄せと、薬味と和えたおぼろ豆腐
  • 野菜の水晶煮を詰めた冬瓜の蒸し物とオクラのスウプ
  • 感想

    真木にはどこか人を狂わせる魅力が備わっています。それは川野だけでなく、同年代の女の子にとっても同じです。作中には彼に恋する女の子も登場するのですが、その子に対する彼の態度がまた絶妙で、読みながら思わず胸を手で押さえてしまいました。
    男女の恋愛に疲れてしまったそこのあなた、たまには違った世界を覗いてみませんか? 
    きっと、恋愛とはなんなのかを考え直すきっかけになるはずです。

紺極まる

紺極まる

  • 長野 まゆみ

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