原発事故を「無きもの」にしようとする安倍政権の隠蔽体質を暴く

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福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞 (岩波新書)

 本書は議員立法で生まれた「子ども・被災者生活支援法」を軸に、政府による福島原発事故の被災者と避難者支援の在り方を追及し、政府の欺瞞を暴く。
 3.11後の3月23日になって政府はやっと緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の試算データを公開した。政府が避難指示を出した半径20キロ圏の外側まで実際の放射能が拡散していた実態を受けて、政府は避難指示の基準を「年間累積線量20ミリシーベルト」とした。「低線量被爆」に対する健康影響の評価は「子ども・被災者生活支援法」を知る上での大前提となる。
 「そんな基準は認められない」と特に細胞分裂が活発で成長期にある子どもを持つ親達が一斉に反発。またSPEEDI始め、政府がメルトダウンの情報を隠蔽したことで、福島県からの自主避難者を増大させた。  
 著者は前作「福島県原発事故 県民健康管理調査の闇」で山下俊一長崎大教授(後に福島県立医大副学長)が事故直後から福島に入り、県内各地で「年間100ミリシーベルト以下は大丈夫」と講演したことを伝えた。しかし「『20メートル以下も危険』となってしまい、私の言葉は(福島の人々に)信用されなくなった」と著者の取材に応えている。
 こうした中、11年秋にロシア研究者の尾松亮氏から情報提供され「チェルノブイリ法」を参考にした民主党案を始めとする「子ども・被災者生活支援法」案の審議が始まった。そして12年6月21日に超党派の議員立法として提出され、成立。
 だが2013年8月30日午前に「被災者支援施策パッケージ」として根本匠復興相が突如発表した基本方針案は「国が線量で一方的に線引きすることで、コミュニティを分断してはいけない」などの詭弁を用いるなど「子ども・被災者生活支援法」の理念を無視したものだった。
 宮城県仙台市の地元「河北新報」紙の質問「なぜ福島県に隣接する宮城県丸森町が対象地域に含まれないのか?」に対し、根本氏は「健康影響はない」という前提だと答えている。丸森町では「原発からの距離も近いし、線量も高いのに」と激しい批判の声が上がり、住民約700人が損害賠償を求めて原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てていた。
 さらに法律施行から1年2ヶ月にわたっても明らかにしなかった関係省庁によるそれまでの裏会議をあっさり認め、突如発表した基本方針案に対するパブリックコメントは2週間しか受け付けなかった。
 関東地方の主婦たちで作る「放射能からこどもを守ろう関東ネット(関東ネット)」のメンバーが憤る。特に千葉県北西部の東葛地域や茨城県南部は事故直後に拡散した放射性プルームによって線量が局所的に高い「ホットスポット」が広がる。そのため健康調査を最も望む被災当事者の危機意識は高い。
 それだけではない。著者が復興庁で情報開示請求していた関係省庁の課長・参事官達が線量基準を検討するため行なわれた秘密裏の会議資料の開示請求を9月4日に受けると、ほぼ黒塗りで議論の内容など分かるものではなかった。
 本書を一読すれば、安倍政権がいかに原発の危険性をなきものにしようとしてきたのか、その羊頭狗肉を把握することができる。
 復興庁の記者会見で厳しく批判した福島の地元紙記者による被災者の怒りの代弁こそに著者の主張が凝縮されていると言えよう。
「この推計値、結果をみなさんは誰に知ってほしいのか。誰のためのデータなのか。調査手法とか、縷々言い訳を聞いたが、4月1日で田村市都路の人は帰っている。一番知りたい人に情報が伝わらなかった事実は曲げられない。」

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