赤川次郎風青春学園ミステリと、江戸川乱歩風幻想ホラー

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天帝妖狐 (集英社文庫)

「A MASKED BALL」と「天帝妖狐」の二編を掲載しています。

「A MASKED BALL」あらすじ

高2の主人公は、人気のないトイレでたばこを吸うのが楽しみ。ある日「ラクガキスルベカラズ」という落書きを見つける。このカタカナの落書きに返事を書いたことがきっかけで、少なくとも5人がこのトイレを利用していることがわかる。カタカナの落書き犯は、きれい好きで正義感が強く、校内の自販機を使えなくしたり、はみ出して駐車している教師の車を滅多打ちにして壊したりする。暴走するカタカナ落書犯はついに、ある女生徒に害を加えようとする。カタカナ落書犯を捕まえるべく、主人公が仕掛けた罠とは?

  • 落書というタイムラグの面白さ
あとがきにもありますが、これがネットの掲示板ならリアルタイムで反応が続くことでしょう。ですが、落書というアナログなものなので書いた時間によっては、まったくピントはずれだったりします。
また、ネットならばいったん書いたものは消されにくいですが、水性マジックの落書きなら知らん顔してメッセージを消してしまうことも可能。そんな落書きを巡っての心理戦が面白いです。

  • ありきたりの冒険ものと恋愛ものとはすこしズレた面白さ
夜の学校に忍び込む!なんて、すごく青春小説ですが、正体のわからない犯人はとても怖いです。主人公もスーパー高校生ではないので、ドキドキさせられます。
主人公と絡むヒロイン格の女生徒、普通なら恋愛に発展しそうなのですがこれがまた、そんな雰囲気にはなりません。すべてが終わって大団円にもならないところが乙一らしいです。

  • ほかの落書き仲間
文章から想像している人とは違うところが面白い。オチを読んでから、もう一度それぞれの落書きを読んでみるとなかなか含蓄があります。考え抜かれたキャラ作りです。

「天帝妖狐」あらすじ

体中に包帯を巻きつけ、人とのかかわりを一切絶ってきた夜木と、心優しい少女杏子のボーイ・ミーツ・ガールのビターなストーリー。

  • 人の心の弱さと理不尽な運命
夜木がこうなってしまったのは、ただ子どもらしい恐怖から逃れるため。同じような立場に置かれたら、だれでも彼と同じことをするでしょう。それだけのこと、なにも悪くないのに真っ黒な絶望を抱えさすらう夜木のつらさは読み進むにつれて、読者もつらくなるはず。

  • 今とは違う時代の、人の残酷さと優しさ
行き倒れている人を自宅に住まわせるなんて、今では考えられないですよね。でも、この小説の中では人の善意と悪意が今よりもずっと濃密です。善意はどこまでも善意で、悪意は人を死に至らしめるほど強い。心の振り幅が大きい分、夜木の絶望が一層激しく感じられます。

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