国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程の入門書

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入門国際刑事裁判所―紛争下の暴力をどう裁くのか (GENJINブックレット (29))

 長期化するシリア内戦。ウクライナ政変、マレーシア機撃墜事件、そして2014年8月の米国のイラク攻撃など、世界は未だ暴動や戦争で溢れている。
 本書は国際法上最も重大な犯罪を犯した「個人」を訴追して裁く初の常設裁判所、国際刑事裁判所(ICC : International Criminal Court)設立の起源とその歴史的意義を解説した入門書である。
 1998年7月に160カ国の政府代表や国際機関、数多くのNGOが外交会議に集い「国際刑事裁判所のためのローマ規程(以下、ローマ規程)」という設立条約が採択された。ローマ規程は「ジェノサイド(集団殺害罪)」「人道に対する罪」「戦争犯罪」「侵略の罪」という四つの犯罪に関わる「個人」を常設裁判所のICCが管轄し、裁く。2002年7月に同規程が発効してICCは発足した。
 だが、これらの罪を犯した個人が即、ICCで裁かれるわけではない。ICCはあくまで「各国の刑事裁判権を補完するもの」とされており、管轄権を持つ国が裁く意思または能力がない場合にのみ事件を受理できる。また、裁く対象はローマ規程が発効した2002年7月1日以降の犯罪に限られる。
 それまでの犯罪の訴追や裁判は伝統的に国家にのみ認められたものと考えられてきた。過去の二度に渡る世界大戦や大規模な殺戮行為を経験した中、犯罪を国際裁判所で裁くという考え方が実現したのは、第二次世界大戦後のニュルンベルク国際軍事法廷と極東国際軍事法廷だったという歴史をもつ。これらの法廷が主に戦争犯罪に責任ある個人を裁く初の実例になっただけでなく、人道に対する罪という犯罪の存在を確認し、国家機関における高官の責任を問う法理を発展させることになったのである。
 だが、前述の裁きの対象は敗戦国の犯罪人に限定されると共に、敗戦国の元首であった天皇が訴追されないなどの綻びも見られた。また、ICCの検討がすでにこの頃から始められたにも拘わらず、冷戦期を迎えて中断されてしまった。
 ICCが常設裁判所発足へと大きく前進したのは、1992年の国連総会で決議されたことを契機としている。同時期に旧ユーゴスラビアとルワンダでの虐殺行為に鑑みて旧ユーゴスラビア国際刑事法廷とルワンダ国際刑事法廷の設置が、常設の国際刑事裁判所の世論を高めることとなっていったことも大きく関係した。
 ICCは被害者のための正義、特に女性と子供の正義を謳い、国際人権法に沿った被疑者・被告人の権利を義務づけている。(21条3項)

 本書が出版された当初は日本は未加盟だったが、2007年5月に国際刑事裁判所(ICC)に対する協力等に関する国内法を整備。同年10月1日に批准、加盟した。2014年では122カ国が批准・加入、137カ国が署名している。
 だが、米国やロシア、中国、インド、東南アジア諸国の多くは加盟しておらず、特に米国、イスラエル、スーダンは今後も批准しないと国連事務総長に通達している。米国にしてみれば、2003年のイラク攻撃の派兵などで自国軍人が不当に訴追される恐れがあるからだ。
 また東南アジア諸国からすれば、ICCに加盟している多くの国家がアフリカやヨーロッパを中心とした事態が同機の大方を占めることからも、加盟意義は薄いと感じさせるという課題が残る。
 本書は旧書ではあるが、集団的自衛権の閣議決定とともにもはや「戦争」が他人事ではなくなった日本人にとって、今一度あまり知られていない国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程を理解することで、戦争犯罪に対し司法で抗すためのよき指南書になるのではないだろうか。

入門国際刑事裁判所―紛争下の暴力をどう裁くのか (GENJINブックレット (29))

入門国際刑事裁判所―紛争下の暴力をどう裁くのか (GENJINブックレット (29))

  • アムネスティ・インターナショナル日本国際人権法チーム

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