東アジアにおける課題解決のための新しい民間外交の形

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言論外交―誰が東アジアの危機を解決するのか

 迫りくる日中韓の東アジア危機を前に、今、新しい民間外交の形として「言論外交」が求められている。2013年10月26日から2日間に渡って北京で行なわれた「第9回東京—北京フォーラム」。安全保障及び両国民間の深刻な感情悪化の問題について「対話の力」で乗り越えるという共通目標のため、日中両国を代表する有力者、有識者、ジャーナリストが熱い議論を交わした。本書は、その席で北京コンセンサス「不戦の誓い」をまとめた発案者の言論NPO代表 工藤泰志氏により掲げられた「言論外交」の提言書である。
 目下、日中両国関係を悪化させる原因となっている尖閣諸島の領有権問題は、1970年代における日中国交正常化交渉の懸案の一つだった。だが、この問題は当時の田中角栄氏、周恩来氏、鄧小平氏らの先人たちの英知により、意見の違いが歴代棚上げされ、将来世代に解決を委ねることで、実質的に先送りされてきた。そのため、これらの島に対する日本の実効支配の現状が、結果的に容認されてきた。しかし、多くの中国国民はこの事実を知らないと著者は指摘する。中国は1992年に領海法で尖閣諸島の領有権を主張し始めるが、2012年の日本の尖閣諸島国有化という事実を経緯も知らないままいきなり突きつけられた結果、日本は力づくで中国を従わせる「覇権主義」だという見方に中国人はなったと著者は見ている。
 こうして危機的状況に陥った東アジア情勢を打開するには、国民感情を悪化させる領土問題や歴史認識問題などの主権を争う問題の場合、政府間外交では相手国に妥協ができず、ナショナリズムを刺激してしまうため、膠着してしまうというジレンマがある。課題解決を目指す外交を支持する世論、著者曰く「輿論」の力が非常に重要な局面にきていると主張する。
 このフォーラムに参加していた元日銀副総裁の武藤敏郎氏は振り返って強く印象に残ったこととして、国務院新聞弁公室主任の蔡名照氏から「来年、東京で開催される『第10回東京—北京フォーラム』で、この民間対話は区切りを迎えることになっていますが、それで終わりにせずに、さらにその先の10年を見据えて継続してもらえないか」という提案が中国側からあった。中国政府が本気でこのフォーラムを受け入れ承認しているという証のようなものだとしている。
 これを裏付けるかのように、北京から帰国後に著者の論考が外交問題評議会(CFR)のホームページに掲載されたその24日に、中国の7人の政治指導部、全閣僚、30カ国の大使を集めた周辺外交活動座談会が開催され、習近平国家主席がそこで重要な演説を行なったことが分かったという。著者らが北京で「不戦の誓い」をまとめていた26日に公表された習氏の発言の中に、中国の使用していた政府の広報宣伝外交、すなわち公共外交と並び、初めて「民間外交」という言葉の表現が公式に位置づけられたのである。
 また日中両国におけるネット社会の台頭により、かつては専門家の支配下だった領域に様々な人々が発言するようになったとして、慶応義塾大学総合政策学部准教授の神保 謙氏は「魅力的な議論というのはツイッターでいえばリツイートされて、どんどん伝播されていく。そういった信頼できるハブ的な役割を担う人をどれだけ社会の中に作れるか、ということが成熟した市民社会において言論が議論するための条件だと思う」と指摘する。
 「不戦」を言論外交で切り拓こうとしている著者は単に日中二国間で合意するだけではなく、東アジアを安定化させる将来の共通した合意にし、マルチな民間レベルの対話のチャネルに発展させる仕組みづくりを提唱している。

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