その土地ごとに存在している異世界。

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穴

芥川賞、受賞作。

ある女性が、旦那の転勤をきっかけに旦那の実家の隣に移住するお話で、『不思議の国のアリス』を念頭に置いて書かれています。
白いウサギを追って穴に落ち、不思議なことが起こる世界に迷い込むアリス。
この物語では白いウサギは出てきませんが、確かに主人公の女性は穴に落ち、日常の中にある不思議な光景を次々と目にします。

非正規雇用の女性が、旦那の転勤をきっかけに仕事をやめるなんていうのはきっとよくあることで、仕事をやめた途端に時間を持て余して毎日ぼんやり過ごしてしまうというのもそうで、引越したその土地の勝手が分からないというのもそうだと思います。
ぼんやり過ごせばそれまでとは時間の感覚が異なってきて、仕事を辞めれば社会との繋がりが希薄になり、新しい土地には知り合いもいないとなると、自分の存在感はふわふわとあいまいなものとなるでしょう。
それはアリスが迷い込んだ世界のように、現実と非現実との境界線があいまいになって何が真実なのかがわかりにくくなることに似ているのかもしれない。
日常によくあることを描写しているにもかかわらず、『不思議の国のアリス』みたいにどこかファンタジーめいた作品になってしまっているところが面白かったです。
分からなくなっているにもかかわらず、主人公の女性はそれほど取り乱すことなく、疑問符を抱えながらもやるべきことをやっている。
だから、物語は迷うことなく結末へと向かっていきます。

国土がそれほど広くない日本だって、田舎に行けばそれぞれその土地の風習があり、どうしてそれをそうしなければならないのかはよそ者には全くわかりません。
その全くわからない世界を、アリスが迷い込んだ不思議の国のように捉えてしまうと面白いのかもしれない。
私たちが見ているもの。
見えているけれど、認識していないもの。
見えているものに対する見方。
絶対に正しいものなんてないのだけど、それは間違っていないのか、と問われているような気持ちになりました。

穴

  • 小山田 浩子

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