耳を澄ませば、ラジオがそこから流れている。

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想像ラジオ

ラジオの魅力を再認識する。

本を開いた途端にラジオの放送が始まります。
想像の中で聴くことのできる想像ラジオ。
DJアークの軽快なトークが展開されていき、途中にはしっかり曲もかかる。
洋楽の名曲。
曲のタイトルが書かれた後の余白で、私たちはその曲を想像することができる。
何度でも曲を繰り返すことができるし、そこから連想した別の曲を想像することもできる。
曲にまつわる自分の思い出へと脱線することもできる。
リスナーとの掛け合いもあり、実況なんかもありで、本当にラジオを聴いているような気分になります。
きっとこれは実際のラジオでも、映像でも表現はできない。
小説だからこそできることなのかもしれません。
行間をうまく使っている小説だと思いました。

そして、そのラジオの合間に現実世界の描写が入ります。
5章の構成のうち、2章目はSさんが被災地にボランティアに行った帰りの車内の中で、
4章目は彼と彼の好きだった人の会話文です。
ラジオの部分とこの現実の部分は全く別のように見えて最後には交差していく。
その交差してもたらされたラストが、涙を誘います。

この小説は明確に震災後を描いた作品で、被災して突然命を奪われてしまった死者と、その死者を思っている人の両方を描きたかったのだろうと思います。
生者は死者へ語りかけ、また同様に、死者も生者へと語りかける。
実際に顔を合わせている時には言えなかったこと、言い足りていなかったこと。
多くの人が一度に亡くなってしまったあの震災で苦しんでいる人を慰めるような物語なのかもしれません。

今、ラジオを聴く人はどれくらいいるのでしょう?
ラジオは聴いている人に呼びかけている。
そこにリスナーがいることで初めて成り立っているような気がします。
リスナーからのお便りを紹介していることもあるし、実際に電話で話していることもありますが、そういうことだけではなくて、「みなさん、いかがお過ごしでしょうか?」て近くにいるみたいに話しかけてくれる。
そういう魅力があることを思い出させてくれる小説でもあると思います。

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