世界では既に自然再生エネルギーが原発を上回る 「原発ゼロ」を叫ぶ「小泉語」を読み解く良書

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池上彰が読む小泉元首相の「原発ゼロ」宣言

「原発ゼロでも東京は五輪パラリンピックを成功させられる」。
 
今、東京都知事選の候補に立つ細川護煕元首相の応援演説に都内を駆け回る小泉純一郎元首相。
本書は「小泉語」と称される小泉氏の「原発ゼロ」発言を中心として、国政を巻き込み再び沸き上がらんとする「原発」を巡る論議と、自然再生エネルギーの世界的な先例からこの国の行く末を考察した、ジャーナリスト池上彰氏による解説本である。

 2013年8月中旬、小泉氏は脱原発のドイツとフィンランドの核廃棄物最終処分場「オンカロ」を視察。同行した原発推進派の経団連企業幹部に「ダメだ!」と一蹴し、「原発ゼロ」との意向を早々に固めていた。  

 同年8 月26日の毎日新聞「風知草」という月曜恒例の政治コラムで、大手メディアの中では初めて「小泉純一郎の『原発ゼロ』」を書いた同紙専門編集委員の山田孝男記者は「(小泉氏は)インタビューは頑として受けない。」「国民の関心の所在をよく見極める。簡単に出てきて踊らない。メディア政治の時代における国民意識とか、見る側の心理をみながらやっているのではないか。」と小泉語録はメディア戦略を周到に練っている表れだとみる。

 同コラムによって、3.11から2014年で約3年目を迎える左派右派の垣根を超えた「脱原発市民運動」は安倍政権に真っ向から異を唱える勢いを得て、「脱原発」世論を再び巻き起こしてきた。こうした潮流の中、今、小泉氏が都知事選で都民だけではなく、日本中の有権者へ向けた熱弁を振るっている様を見れば、前述の山田氏の解釈は的を得ていると言えよう。

 小泉氏は「自然再生エネルギーのさらなる技術開発を進めるべき」とも提言している。しかし、日本の自然再生エネルギー論議で目立つのは「コストを巡る話」ばかりだ。自然再生エネルギーに切り替えると原発より「金」がかかると。たとえば個人の生き方とか、社会の自由度とか、地域社会の自律性などの議論は尽くされていない。

 国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問の末吉竹二郎氏は、池上氏のインタビューに対し、「デンマークのサムソ島という人口4000人ほどの小島が、自然再生エネルギーで蘇った」と世界的に有名になった事例を挙げる。「島民の共同出資で20年かけて風車を建て、エネルギー供給120%の町を作った。4000人で21基です。持ち主は農家など島民で、風力発電機はサムソ島の美しい自然の風景によく溶け込み、島は活性化された」と語る。今、世界各地ではこのサムソ島と同じような動きが広がっているという。

 小泉氏と原発推進派との激しい討論で日本経済の衰退が指摘されたが、小泉氏は、「捨て場所のないような原発を経済成長に必要だからとつくるより、同じ金を自然エネルギーに使って循環型社会をつくる方が建設的」だと反論する。 
 現に自然再生エネルギーは欧州で30兆円の投資先を呼び込み、IEAの報告書では2011年の1年間だけで省エネルギーに投資された金額は世界で約30兆円だったという。
また、2012年末の数字ではあるが、REN21によれば、自然エネルギーによる設備の発電能力は世界全体で4.8億キロワットにも上る。対して、IAEAによると、世界の原発は437基で3.73億キロワットと、世界では既に自然エネルギーが主電力となっているのだ。

 小泉氏は「政治で大切なことは、目標として大きな方針を打ち出すこと。あとは知恵者が知恵を出す」と小難しいことは言わず、簡潔な提言を繰り返す。このメディア戦略こそが「小泉語」の神髄であり、「原発ゼロ」の実現を可能にする武器なのだ。

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