靖国問題とは何か

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靖国問題の深層 (幻冬舎ルネッサンス新書 み-2-1)

■ワンセット思考

公的な戦没者慰霊の肯定と靖国肯定や右翼的思想は異なる
靖国否定と、左翼的思想も異なる

これらは靖国や公人の政教分離規定違反の訴訟等の中で主張・対立の軸とされた事柄が
セットにされてしまっただけで、実際には戦没者慰霊に賛成でも靖国は否定といった要素の
組み合わせはありうるもの

■昔のほうがましだったという嘆き

・靖国問題とは
戦後一宗教法人となった靖国神社に対し、公的復権を求める勢力がいることによって生じた諸問題
→中韓との外交問題、A級戦犯を合祀していることの問題といったものではなく、国内における捩れの問題が根源

中曽根総理の参拝と松平宮司のA級戦犯合祀→国際問題化
それまでは①日本遺族会による国家護持路線(首相の公式参拝も社会的儀礼に過ぎないとする主張も含む)と②一宗教法人とすべしという政教分離規定の解釈という2つの問題

戦後まもない頃は、神社では、亡くなった人と親しく出会えるという認識(つまり墓参り的なもの)もあり、無名戦士の墓と同様の認識が一般人の中にもあったが、実際には神として祀るということの意味が指摘され、純粋な戦死者の追悼とは異なる認識が出てくる

戦後も一定期間は、中国との国交正常化棚上げ等、中国に関する情報は制限されていた、また、先の大戦で日本が主戦場ではなかったことも相俟って、独のように国家全体での戦争への反省ではなく、一定の懲りない考えも残っているため、上記のように、靖国に対する徹底した否定認識はなかった

■靖国創建~中曽根参拝

・宗教 自然宗教と創唱宗教、民族宗教
 神道は民族宗教だが、各地の神々を否定せず、仏教とも融和的な解釈がなされた
 本地垂迹など

・国体思想と神仏逆転
 キリスト教は他の宗教の神を許容しない性格のため弾圧を受ける
 幕末に、外圧に対して仏教の脱俗的な思想はあてにならず、民族意識奮起のため記紀神道の国体思想がもち出された
→水戸藩の大日本史編纂や本居宣長の国学などが背景

維新においても日本は神の子孫たる天皇を戴く国家であることで民族意識を高めることが人気を博し(将軍は東照大権現という仏教寄りのもの)、思想の面で神仏の逆転現象が起きた

明治維新は西洋からの科学技術導入などが説明されるが、このような神の国としての思想が生じていることも重要

・靖国神社創建
起源は招魂祭という勤皇志士の幕末に営んだ同視鎮魂の儀式
→官軍側のみを神道方式で祀り、幕府側は省みない形式

戊辰戦争終結後に一連の官軍側死者の一大追悼の祭典を行ったのが招魂社創建の日とされる

戦勝側の一兵卒の戦没者をも神として祀るという特殊なものなっていった(井伊直弼・白虎隊などは祀られないし、戦争の度に神が増えていく)

実際は幕末期には会津藩士等朝廷派であるか微妙な場合もあり、随分経ってから改められ祀られるケースも

・国家神道体制
早い段階で頓挫
神道は国教ではなく道徳だとすることで教育を行った

・分祀
分祀とは靖国からA級戦犯をなくすものではなく、別の神社にも神の分身が宿るだけで、元の神社からいなくなって別の神社に移るものではない

■占領下の攻防

・米国は神道が宗教であることを明確に認識
→国家的宗教としては廃するが、私法人としての生き残りは他の宗教と同様として認める一方で靖国が宗教色を排し、単なる公的戦没者慰霊施設となる余地もあった

・靖国の本音
公的なものであり宗教でもあるが、それのどちらかの面をとるとどちらかを捨てざるをえないというジレンマ

感想

いわゆる靖国問題といわれるものについての基本的理解をえるためにはいい本。
私が読んだ靖国関連本では、戦争問題・戦後問題についてのみ言及している本、自分の意見を言いたいだけの本もあり、それらに比べると、靖国、あるいは神道の立ち位置や歴史、特に幕末以前、維新~戦前、戦後における比較観点があり、また、神社の構造や、儀式についての説明もあるので、全体像として把握しやすい。その上で、個々の説明もそれなりに詳しく書かれているので、バランスのいい本だと思う。

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