準市場であるがゆえの介護保険制度の課題

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介護保険制度は「市場原理」ではない

介護保険制度の創設にあたっては、それまでの社会福祉制度としての介護サービスの課題を踏まえ、多様な事業者(民間営利法人を含む)の参入により、市場原理のもとで競争により良質な介護サービスを提供するというねらいがありました。

つまり、多様な事業者が存在するようになればなるほど、利用者がそれを選び、良いサービスが選ばれ(逆に質の悪いサービスは淘汰され)、全体としての質の向上が図られる、と考えられていたわけです。

しかし、実態として、目に見えてそうした「良い競争」や「悪質な事業者の淘汰」が起きているわけではありません。

自由にモノやサービスを売る「売り手」があり、それを自分のカネで買う「買い手」がいる。買い手は自分のカネを使うので、できるだけ良いモノ・良いサービスを選ぼうとする結果、悪いモノ・サービスを提供する売り手はつぶれる。そうすることで、世の中には良いモノ・サービスが広がる。これが市場原理ですが、介護保険ではこういった仕掛けにはなっていません。実は、介護保険制度の仕組みは「準市場」のひとつと考えられているのです。

「準市場」とは

この準市場(あるいは疑似市場)とは、部分的に市場原理を取り入れている経済メカニズムのことです。公共サービスを民営化していく際によく用いられるシステムですが、競争原理が一定程度は働くものの完全な市場とはいえないのでこう呼ばれます。具体的には、次のような条件があるなかでの市場をいいます。

①費用の大部分が公費や保険料で賄われる
②事業参入が完全には自由化されていない(行政の許認可や指定、登録などが必要)
③事業展開にあたって一定の規制がある(設備や人員・運営基準など)
④サービスの対価が公定価格として示される(報酬は政府や自治体が定額で決定するなど)

医療や介護サービスに市場原理を導入しようとしても、費用の全額を国民・利用者の負担とするには無理があります。費用がそもそも高額で、自己負担とすると富裕層しか利用できなくなり、公共性に反するからです。また、悪質なサービスとなってはいけませんから、政府・自治体が規制や指導を行います。

逆にいえば、買い手は全額が自己負担ではありませんから、少々悪いサービスでもそのまま利用することが多くなります。

売り手は規制の範囲内でしかサービスが提供できませんから、良いサービスを生み出す余地が少なくなりますし、努力をしてもしなくても収入・報酬は同じです。そのため、サービスの質の向上も起こりにくくなるのです。これが準市場の功罪であり、競争がそう激しくは起こらない理由でもあります。

準市場の課題

準市場で起こりやすい問題として、以下のような点が指摘されています。

①クリームスキミング(おいしいところどり)

売り手が効率的で利益性の高い部分のみを対象とすることで、平等性・公平性が損なわれる可能性があります。手のかかる買い手を避けることなどが起こりやすくなるわけです。

②モラル・ハザード(倫理の逸脱)

報酬が一定額であるため、売り手が利潤を上げるために、法定の基準を犯したり、不正をはたらいたりして支出を減らすなど、公正さを欠く事案が起こりがちです。その結果、給付費の増大を招くことにもなります。

③公的規制の強化

サービス内容を保証するためには事業の許認可制度や公的資格制度が必要となりますが、こうした規制が過度になっていく傾向があります。

以上は経済学的に一般論として指摘されていることですが、そのまま見事に介護保険制度の問題にも一致します。こうした視点から介護保険制度の課題を考えていく必要もありそうです。

感想

まだまだ介護保険には市場の伸びがありそうです。ワタミが参入した理由もわかる。

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