漂流巌流島(高井忍)の書評・感想

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漂流巌流島 (創元推理文庫) [kindle版]

http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-1993.html

本書は、4編の短編が収録された連作短編集。表題作である「漂流巌流島」でミステリーズ!新人賞を受賞しデビューした作家です。
まず大まかな設定から。主人公は、シナリオライターの僕。低額の予算と短い日程で早く撮ることに掛けては職人気質の三津木監督に頼まれて、監督が担当するチャンバラモノのオムニバス作品の時代考証をさせられることになる。本当は監督が担当する作品はオムニバスの一編だけだったはずなのだけど、色々とゴタゴタがあって、結局オムニバス4編すべてを三津木監督が手がけることになり、僕の時代考証も大変なことになるのだけど…。
僕は、様々な資料に当たる。そのオムニバスは、一応『実録』ということになっていて、一般的なイメージとは異なる、本当の姿に光を当てよう、という趣旨だ。だから僕は、それぞれの事件の原典とでもいうべき資料に当たり続ける。それを僕がレポートにまとめて三津木監督とダベっている中で、三津木監督が、その事件に隠された真相を見抜く、という筋立てです。
いやはや、いやはや、これはですね、すっげー面白かったですよ!
僕は、さっきも書きましたけど、歴史の知識はホントまったくないんです。高校とかでも、日本史・世界史とも授業を受けた記憶がない。地理とか政経ばっかりやってたんで、中学レベル程度の歴史の知識しかないんです。それに、元々歴史自体に興味も持てない人間なんで、巌流島での決戦も赤穂浪士の討入りも新選組による池田屋事件も鍵屋ノ辻の討入りも、基本的なことさえほとんど知らない状態で本書を読みました。まあそんな人間なんで、歴史的な事実に関する描写については、結構苦労したり、ついていけなかったりする部分は多々ありました。正直、歴史が苦手な僕のような人間には、ちょっと読むのに苦労する作品かもしれません。
それでも、三津木監督が解きほぐす『もしかしたらこうだったんじゃねーの』的な真相が仰天させられるものばかりで、滅茶苦茶楽しめました。僕のように、歴史的な事実をほとんど知らなくても(僕なんか、忠臣蔵の話とかマジ何も知りませんからね。大石内蔵助って名前がなんとなく出てくるぐらい。人数も、47人なんだか48人なんだか忘れるし)、作中で基本的なこと、一般的なイメージについてもきちんと説明してくれるんで、すんなり、とはいかないまでも(あくまでそれは、僕のように、歴史の知識が皆無な人間には、ということ。歴史の知識を普通程度に持ってる人なら、普通に読めると思います)、三津木監督が提示する驚愕の真相を楽しめる程度には概要を理解できるようになると思います。
僕がそもそも歴史を好きになれないのは、『どうやったって本当のことは分からないし、曖昧な解釈をするしかないんでしょ、歴史って』っていうような認識があるからです(これは、本書を読んだ今でもあります)。だって、所詮人が書いた文章を後から色々解釈して、こーだったあーだったって話をしてるわけですよね?文章に嘘があるかもしれないし、勘違いもあるかもしれないし、本人が書いてるからと言ってどこまで正確かなんて分からないと思うんです。結局答えの出ないことについて、あーだこーだ決め手のない議論をしている、というイメージがずっとあって、それで今でも歴史は好きになれません。
でも本書は、『歴史って、解釈の余地があるからこそ面白れーんじゃねーの』っていうことの一端を思い知らせてくれた、という感じがあります。

感想

一言で表現すれば、鯨統一郎の「邪馬台国はどこですか?」と同系統の作品です。「邪馬台国~」はもうかなり昔に読んだんでちゃんと比較は出来ませんが、「邪馬台国~」の方がもっと短い話がいくつもあった気がするんで、濃密さという点では本書の方が上かもしれません(別に、だから本書の方が優れている、なんて言いたいわけではないんですけど)。「邪馬台国~」を読んだ時にも思いましたけど、歴史にまったく興味のない僕にもこれだけ面白く読ませる作品を書くというのは凄いなと思います。たぶん、歴史の知識がそれなりにきちんとある人が読む方が、もっともっと面白いんだと思います。これは、新人のデビュー作としてはちょっと破格かもしれません。是非読んでみてください。

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