アゲイン(浜口倫太郎)の書評・感想

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アゲイン

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なかなか面白い作品でした。ちょっと物語の立ち上がりが遅いかなぁと思ったんだけど、雄貴の妹の楓と、あと雄貴の幼なじみである沙紀の話がきちんと描かれるようになってくると、結構話が回りだしたなぁという感じがしました。
とにかく、楓と沙紀が非常に良いです。雄貴の話がもちろんメインだし、雄貴の話も全体として巧くまとまっているんで面白く読めるんですけど、個人的には、楓と沙紀の話の方が興味津々でした。
楓は、雄貴のおかんが再婚してから出来た子供で、基本的に東京で育ったんで、笑いというものを基本理解しない。というか、理解したくないんですね。大阪では、ボケた人間こそが偉いという、まあ関東の人間にはなかなか理解出来ない空気があるようで、楓はその空気にどうしても馴染むことが出来ないわけです。
この楓がどうなっていくのか、というのは、一つの読みどころだと思います。楓の変化も素晴らしいし、楓の才能も素晴らしいし、楓が雄貴の人生に介入するそのスタンスみたいなものも素晴らしいです。小学生にして、ここまで自分の立ち位置がブレないっていうのは凄いな、という気がします(まあ、価値観は180度変わるんですけども)。
沙紀は、人気キャバ嬢で、結婚を控えていてウキウキ。雄貴の家に無理矢理押しかけてくるのはいつものことで、うっとうしく思うこともあるんだけど、沙紀が雄貴の料理を食べる代わりに食費を出してくれるから、なし崩し的に沙紀に侵略を受け入れている。
その沙紀も、まあ色んな描写があるわけなんだけど、いいですね、沙紀。惚れますね、こういう女性には。なんだろう、強い、って言っちゃうとなんか色んなものがこぼれ落ちていくような気がするんだけど、大雑把な表現で言えば、強いなぁという感じです。でもそれは、しなやかさのない強さで、だからある日ぽっきり折れちゃうようなそういう脆さもあったりする。そういう部分を見せまい見せまいとしている部分が、またいいですなぁ。
さてメインの雄貴の話なんだけど、僕自身はお笑いというものに凄く強い関心があるわけではないから、本書で描かれるお笑いの内部の世界については、なるほどこんな風なのねー、という感じでした。あくまでも予想なんだけど、たぶんある程度『大阪の空気』みたいなものを肌で感じた経験があるかどうかで、本書の読み方って変わってくるんじゃないかなと思うんです。
本書には、雄貴が同期の芸人と飲み屋に行き、そこで意気投合した初対面のおっさんと楽しく飲む、という場面が出てくる。もちろん彼らの間を繋ぐのは、笑いだ。初対面の人間でも、笑いさえ間にあれば仲良くなれる。そういう認識を、多くの人が共有しているんだろうと思うんです。
僕は『大阪の空気』というのは全然分からないけど、そういう、文字や映像で理解するんじゃなくて、肌で感じる部分が、本書には結構多い気がします。僕が肌で感じたことのない『大阪の空気』に一度でも触れ共感したことがある人(あるいは生まれた時からその空気の中にいた人)には、僕が感じられなかった『何か』を感じられるのではないか。そんな気がしてしまうんですね。笑いという共通言語がある、という空気はなかなか想像しにくいので、それが理解できる人にはより楽しめるのかもしれない、と思ってしまいました。
個人的には、雄貴の父親の話の方が結構気になりました。才能と努力の関係とか、あるいは時の運とか、そういうことについて考えさせられました。

感想

なかなか面白く読める作品だと思います。個人的には、主人公の雄貴の話より、妹の楓と幼なじみの沙紀の話が好きです。読んでみてください。

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  • 浜口倫太郎

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