掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南(輪渡颯介)の書評・感想

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掘割で笑う女<浪人左門あやかし指南> (講談社文庫)

http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-2031.html

城下町に、幽霊の噂が広まっている。いくつかのパターンがあり、堀割から女が覗いていたとか、木の上に女の上半身だけがとか様々なのだけど、それらには共通項がある。
女の姿を見たら死ぬ、というものだ。
幽霊の噂の広まった町は、夜ともなればひっそりとしていた。出歩くのは助平か飲兵衛くらいなもの。特に幽霊が出ると噂された堀割の辺りは真っ暗で、人通りも少ない。
そこで、次席家老の檜山織部が暗殺された。
政治力学に従って檜山は病死だとされ、何事もなかったように日常は過ぎていく。
その町に、一人の腕の立つ少年がいた。苅谷甚十郎というその少年は、滅法腕は立つのだが怪談話には異様に恐れるというので、よくからかわれていた。
その甚十郎、江戸へと修行に出ていた時、平松左門という凄腕の男に稽古をつけてもらい、ますます強くなった。この左門という男、酒と怪談話が滅法好きという男で、やはりここでも甚十郎は怖い怪談話をたんまりされて脅かされたものだった。
檜山暗殺に関わった者の周辺と、浪人である左門の周辺で、様々な幽霊話が、誰かからのうわさ話という形で入ってくる。檜山暗殺に関わった者たちは、次々と『死人』に殺されていく。そして左門は、幽霊話の背景を探っていく…。
というような話です。
なかなか面白い作品でした。最近メフィスト賞受賞作品ってあんまり読んでなかったんですけど、これはなかなかないタイプの作品だなと思いました。
読んでいても、物語がどういう方向に進んでいくのか、しばらくまったく読めないんですね。
初めは、ただの怪談を扱った物語だろうか、と思うような話です。短い幽霊話がいくつも出てきて、背景を説明される幽霊話もあるけども、そうではないものもある。檜山暗殺と、浪人左門がぶらぶらしていることが物語の主軸なのだろうけど、そうではない様々な断片も色々と入り込んでくる。そもそも、檜山暗殺の話と左門の話との繋がりは、初めのウチは全然見えてこない。
しばらくするとようやくなんとなく分かってくる。これは、ミステリの枠組みに幽霊話という皮をかぶせているのだな、と。そこで僕は、京極夏彦の作品をチラッと連想しました。
京極夏彦の<京極堂>シリーズとか、あるいは<巷説百物語>シリーズなんかは、両者の物語の構造こそ違えど、共に『妖怪』という怪異の膜を隔てることで、謎めいた状況設定を生み出したり、あるいはこんがらがった状況を解決したり、という物語です。妖怪、という存在がまだある程度信じられていたような時代に、その妖怪という怪異を人為的にうまくコントロールすることでそこに物語が生まれる、そういう印象です。
本書もかなり近いものがある、と思いました。本書では妖怪ではなく幽霊だけど、幽霊という存在をうまく膜として機能させ現実に起こっていることを覆い隠し、それによって謎めいた状況を生み出している、という物語なわけです。
本書に、なるほど、という一文がありました。

『ほとんどの人は幽霊が出てきた段階で考えることをやめてしまうのだそうです。私のように信じきって徒に怖がるか、大目付さまのように頭から否定してしまうか、なのだそうです。』

これが本書の物語の特徴を巧く説明している、と感じました。確かに人間って、自分には理解しがたい状況に名前だけポンと与えて、それ以上考えない、という傾向ってあるなと思います。

感想

どこをどうすれば、というのは巧く言えないけど、もうちょっと全体の構成はスマートに出来るんじゃないかなぁ、とか思ったんだけど、でも新人のデビュー作としてはなかなか読ませる作品だと思いました。シリーズになっているようで、ちょっと二作目も読んでみる予定です。なかなか珍しいタイプのミステリではないかと思うので、是非読んでみてください。

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