海炭市叙景(佐藤泰志)の書評・感想

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海炭市叙景 (小学館文庫)

http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-2033.html

本書は、海炭市という架空の町を舞台にした、18編の短編が収録された短篇集です。18編すべての短編を紹介するのはしんどいので、全体的な雰囲気だけざっと。
海炭市というのは、かつては炭鉱で栄えた町だけども、今は寂れていく一方。周りは海しかなく、時期によって観光客がたくさん来たりする。
そういう町で、ひそやかに生きていく人々を描く。年を越す金がない兄弟が、故郷に戻ってきた夫婦が、プロパンガス運送の仕事に就く男が、市電の運転手が、切手を集める少年が。そういう、海炭市周辺に住む様々な市井の人々が描かれていく。明るい未来があるとは決していえないその町で、鬱屈や諦めの蓄積と共に過ごす人々のささやかな日常を切り取った作品。
様々な奇跡的な出会いがあって復刊に至った作品で(その経緯を詳しく知っているわけではないんですが)、埋もれてしまっていた作家の作品がこういう形で世の中に出てくるというのは凄くいいことだなと思います。
ただ僕には合わない感じでした。たぶん、非常に良い作品なんだろうと思うんですけど、僕の読書とは相性が良くなかったなぁ、と。
僕にはどうしても、小説をじっくり読む、ということがもう出来なくなってしまっています。書店員になってからは余計にそうですが、とにかくどうにかして早く読みたい、と思ってしまうのです。で、もちろん当然の話ではありますが、そういう読み方ではうまく合わない作品というのもたくさんあるはずなんです。
本書も読む前から、これは時間を掛けてゆっくり読もう、という気構えで読むことが出来れば、また違ったかもしれません。ふだんの二倍・三倍ぐらいの時間を掛けて読むつもりでページを捲れば、また違った印象になったような気もします。ただ、僕が読みたいと思っているスピードで文章を追おうとすると、なかなか文章が入ってこないのですね。
僕は古典作品を読むのが凄く苦手なんですけど、それも恐らくそういう理由なんだろうなぁ、という感じはします。僕が読みたいと思うスピードで読むと、どうしても文章が入ってこない、という感じがします。本書を読んであまり入り込めなかったのも、恐らくその辺が理由だろうなぁ、と思います。
僕は地方出身者ですが、地方に住んでいた時に地方らしい鬱屈とか劣等感みたいなものを特に意識することなくだらだら過ごしていたので(まあ、ある程度平和だったのでしょうね、僕の周辺は)、海炭市に住む人々の感覚というものにどこまで近づけたかというと、なかなか難しいものがあります。ただ、海炭市のような町は日本中至るところにきっとあるのだろうし、彼らに共感できる人たちというのも恐らくたくさんいるのだろうと思います。

感想

ストーリー自体は、これと言って特別あるわけではない話が多いですが、だからこそ彼らの日常という現実がリアルに浮かび上がってくるような気がします。特別なことが起きるわけがない、そんな諦めにも似たような現実の底で暮らす人々の、やっぱり特別なことが起こるわけではない日常の物語。共感できるという人は結構いるのではないかと思いました。

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