一鬼夜行(小松エメル)の書評・感想

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一鬼夜行 (ポプラ文庫ピュアフル)

http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-2038.html

本書はジャイブ小説大賞を受賞した、著者のデビュー作です。
ある日空から妖怪が降ってきた。
物語は、そんな突拍子もないところから始まる。
舞台は、江戸幕府が瓦解してから5年、文明開化の音がそこかしこに聞こえつつ、未だ江戸時代の名残を残す、そんな東京でのこと。
強面で人嫌いで、周囲から恐れられる商人・喜蔵の家の庭に、ある夜突然生意気な少年が空から降ってきた。基本的に誰も信用せず、誰とも関わらずに生きている喜蔵だが、どんな気まぐれか、その少年を拾って世話してやることにしたのだった。
その少年は小春と名乗り、自分は百鬼夜行の途中ではぐれてしまった鬼だ、と主張する。喜蔵は、それ自体はさほど気にとめない。小春の言っていることを信用していないからではなく、どうでもいいと思っているのだ。小春が人間だろうが妖怪だろうが。
小春は大飯食らいで、かつ、喜蔵をこれでもかと面倒に巻き込んだ。どうやら妖怪にいたずらされているらしい面々が小春と喜蔵の元に集まるようになり、その度に小春に振り回されることになり…。
というような話です。
なかなか面白い作品でした。妖怪が主人公の(というわけではないんだけど、主要な登場人物として出てくるような)作品って、あんまりどうかなぁ、と思ってたんだけど(京極夏彦の<京極堂>シリーズも、妖怪が主人公だと思い込んでてしばらく読まなかったくらい)、妖怪っぽい妖怪という感じでもなくて、すんなり読めました。
小春のキャラクターがなかなかいいなと思います。妖怪なんだけど、まるで妖怪っぽくない。妖怪は人に悪戯するのが生業みたいなものなんだけど、小春は、ちょっかいを出すぐらいの悪戯はしてみるけど、本当に人間を困らせるようなことはしない。本書の中には、とある理由から人間に悪戯をしないと決めた妖怪が出てくるんだけど、小春はそういうのとも違って、性根がなんだか妖怪っぽくない、という感じなのだ。時折垣間見せる妖怪っぽい部分はあるんだけど、基本的には生意気でやんちゃな少年でしかない。
ただやっぱり妖怪は妖怪なので、人間の機微みたいなものは察することが出来なかったり、人間の言動を不思議そうに眺めていることもある。そういう、人間と妖怪の感覚の違いみたいなものが作中で面白く描かれているな、という感じがしました。
あとやっぱり喜蔵も素晴らしいですね。完全にツンデレでしょう、これは(本当に、デレの部分は少ないのだけど)。色んな人間に裏切られた、という過去を持つ喜蔵は、なるべく人を信用しないように、人と関わらないように、と考えてずっと生きてきた。人と関わっても碌なことはない、と。だからこそ、小春ともなるべく深入りしないままでいようとするし、小春と関わることで増えてきた周囲の人達との関わりも、なるべくあっさりとしたものになるようにと、物凄く頑固でいる。
でもそれが、やせ我慢なんだろうなぁ、というのが伝わってくるんですね。本当は、誰かと関わっていたいし、人を信頼もしたい。でもそうしないと決めた、というその一点にこだわって、そこから抜け出せないでいる。小春の天真爛漫な感じがうまい具合に作用して、少しずつ喜蔵が素直になっていく(とは言っても変化は本当にほんの少しなんだけど)過程はなかなか面白いと思います。
他にも深雪とか彦次とか弥々子とか、なかなか魅力的なキャラクターが出てくるんだけど、ちょっとあまりにも時間がなさすぎるので省略。

感想

妖怪の話でバタバタするだけじゃなくて、喜蔵や小春の抱える過去なんかも描き出されていって、深みのある物語になっています。
妖怪と言っても別に怖いものじゃなくてなんだか滑稽な描かれ方をしているものが多いし、そもそも小春がまったく妖怪っぽくないのが凄く面白いです。凄く妖怪が好きだっていう人にはどう感じられる作品なのか分かりませんけどね。小春と喜蔵の意地っ張り同士の掛け合いがなかなか読ませる作品だと思います。是非読んでみてください。

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