真贋(吉本隆明)の書評・感想

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真贋 (講談社文庫)

http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-2041.html

本書は、ざっくり説明すると、吉本隆明が書く生き方本、という感じではないかと思います。
吉本隆明が触れる話題は、かなり多岐に渡ります。言ってしまえば、僕はちょっと散漫な印象を受けました。こういう世の中になったという話、自分の仕事や生き方について、政治経済宗教などの話、子育てや育ちの話、などなど、なんというか、思いついたことを書いている、という感じの印象でした。
個人的には、ちょっとぼんやりした感じの作品だなぁ、と思ってしまいました。ちょっと僕の考え方にはうまく合わないぞ、という感じがしました。
この印象は、僕の中で、確固とした比較対象が存在します。それが、森博嗣です。
森博嗣は大学の助教授でかつミステリ作家、吉本隆明が何者なのか僕は正確に知りませんが、批評家とか詩人なんでしょう。著作業をしている、という以外に共通項を見出しにくい二人ですが、僕の中で本書を読んでいる間、常に森博嗣のことが頭に浮かびました。
僕は吉本隆明の作品は、本書しか読んでいません。他にどんなことを書いているのか、どんな思想の持ち主なのか、というようなことは基本的に知りません。だから僕の中で吉本隆明は、『真贋』という生き方本を書いた人、という扱いで今後書きます。
森博嗣の場合は、集英社新書から出ている「自分探しと楽しさについて」「自由を作る自在に生きる」などの、森博嗣本人はそんな風に表現されたくないでしょうが、同じく生き方本を書いた人、という扱いでいきます。
僕の中で森博嗣の生き方本は、非常に鋭い印象です。森博嗣は物事を、あまり一般的ではない切り口から両断します。そしてそれを、結構断言する感じで書く。「~と思う」というような表現ももちろん出てくるんだけど、少なくとも僕の印象では、森博嗣がそういう表現をする場合は、森博嗣自身がそれに興味を抱いていない事柄に関してではないか、と思います。基本的に自分の考えをスパッと提示し、そしてそれが僕の考え方と非常に親和性が高かったりするのです。だから森博嗣の生き方本は僕の内側にスーっと染みこんできます。
一方で本書は、森博嗣と比べてしまうと非常にファジーです。そもそも、「~だと思います」「~という気がします」という表現が結構出てきます。確かに本書は、『吉本隆明がそう思ったこと』について書かれている作品なので、「思う」とか「気がする」という表現が結構出てきたところで文句を言うようなことではないのかもしれないのだけど、やっぱりちょっと気になってしまいました。
しかもその「思う」「気がする」という意見の表明が、どこから出てくるのかイマイチよくわからないのでした。吉本隆明の周囲の観察によってそう判断したのか(そういう風に記述がなされている箇所もありましたが)、あるいは、根拠も何もないただの自分の独断なのか。そういう部分がイマイチはっきりとは分からないままでした。
例えば本書には、こういう文章が出てくる。

『現に、子どもが成人してから一番なつかしがるのは母親であって、父親ではありません。これは百パーセント疑いのないことであり、父親の役割は母親を介して子どもに作用しているだけです。父親に親しみを感じている子どもがいたとしたら、母親との関係がよっぽど悪かったのでしょう。そうでなければ、大体人間は死ぬ間際まで、思い起こすのは母親のことです。親愛の情を持って慕うのも母親と決まっています。』

感想

とはいえ、面白く読める部分もそこそこはありました。『本を読むことで心が豊かになるというのは違うのではないか』『お互いに言いにくいことを言い合えるかどうかが、良い関係の基準』『柔道の谷亮子が何を考えどんな練習をしているのか』なんていう話は結構面白かったし、まあ面白く読める部分もちらほらある、という感じです。
個人的にはちょっと僕には合わない作品でした。やっぱり森博嗣の作品の方が僕には凄く合う気がします。まあでも結局は、自分がどんな風に生きてきたか、どんな考えを持ってるかに左右されるような気がするから、森博嗣が合わないけど吉本隆明は合うって人もたくさんいるだろうし。相性の問題かもしれません。

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