開かせていただき光栄です(皆川博子)の書評・感想

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開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)

http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-1863.html

舞台は18世紀ロンドン。瀉血となど、まだ医学的に正しくない治療法が世に広まっていた時代、解剖によって人体をくまなく観察し、その観察によって医学を前進させようとする男がいた。
その男の名を、ダニエル・バートンという。
まだ解剖が一般的ではなく、そもそも外科医が床屋と同じ程度の扱いをされていた時代、周囲からの悪評をものともせず、墓掘りから死体を買い、防腐剤を開発し、幾多の標本を生み出し、正しい医学的知見を見出してきた。
ダニエルが開いている解剖教室は、実は兄ロバートのものだ。
ロバートは、内科医として上流社会へと喰い込み、ダニエルの後ろ盾となっている。とはいえ、ダニエルの仕事を純粋にサポートしているわけではなく、ダニエルが作る標本や、ダニエルが発見する医学的知見を、すべて自らの名の元に発表することが目的だ。ダニエルもロバートのそんな行いに気づいてはいるが、ロバートの後ろ盾なしには解剖教室を続けることが出来ないもの事実だ。
ロバートのその行いは、ダニエルの弟子たちも苦々しく感じている。
ダニエルには5人の弟子がいる。一番弟子であり、最も業績を上げているエドワード・ターナー(エド)、細密画が得意で、解剖中絵を描くことを任されているナイジェル・ハート、そしてあと三人、お喋りのクラレンス・スプナーと、太っちょのベンジャミン・ビーミス、そして痩せっぽちのアルバート・ウッドの五人だ。彼らはみなダニエルのことを心から尊敬していて、ロバートの悪行に苛立ちながらも、ロバートなしでは解剖教室が成り立たないというジレンマを受け入れている。
ある夏の日、ダニエルの解剖教室には三つの死体が存在した。
一体は、いつものように墓掘りから買った死体だ。妊娠六ヶ月の母体という、極めて珍しい死体で、ダニエルはこの解剖を心待ちにしていた。
しかしそこに、ロンドンの治安を守る存在である犯罪捜査犯人逮捕係(通称 ボウ・ストリート・ランナーズ)がやってきた。妊娠六ヶ月のその死体は、ラフヘッド家という高名な地位のお嬢様であり、それでボウ・ストリート・ランナーズが動いているらしかった。
彼らがやってくる前に死体を暖炉に隠した弟子たち。ボウ・ストリート・ランナーズの二人を追いやって、さて解剖の続きを、と思った時、今度は治安判事の使いの者がやってきた。
アン=シャーリー・モアと名乗ったその女性は、治安判事ジョン・フィールディングの姪であり、女でありながら盲目の治安判事の『目』として動き回っている。解剖をしようと暖炉から引きずりだした<六ヶ月>の死体の包みをアンに開けられてしまったのだが、なんとそれは、四肢のない少年の死体にすり替わっていた。
アンが一旦退いた後で、<六ヶ月>の死体を見つけるために再度暖炉の中に入ったところ、そこで第三の死体を発見した。その死体は、顔を潰され判別できなくなっていた…。
というような話です。
これは凄い作品だったなぁ。ミステリとして、相当よく出来ている、と思いました。
本書で最もメインとなるのは、もちろんミステリ的な部分です。このミステリ的な部分の作り込みはなかなかのものです。この部分については、ちょっとしたことがネタバレになりそうな気がするんで、極力なにも書かないままで終わらせたいところですが、ちょっとは何か書きましょう。

感想

事件を引き起こした動機や、最終的な着地点なんかも、この当時のロンドンだからこそ、というような部分が含まれていて、ただ単にジョン・ハンターをモデルにしたくて18世紀のロンドンを舞台にしたわけではない。本当に細部にまでこだわりのかんじられる作品で、僕は皆川博子の作品を初めて読みましたけど、これはちょっと他の作品も読んでみるべきかもしれないな、と感じました。
ミステリとしての質の高さと、18世紀ロンドンの雰囲気の描写の質の高さ、そして実在の人物を舞台にした『解剖』の状況を取り巻く描写が見事に絡みあった絶妙な作品だと思います。装丁も本当に素敵だと思うし、タイトルもなかなか洒落てますね。出てくるのが外国人ばっかり(当然ですが)なので、外国人作家の作品を苦手とする僕にはちょっとどうかなと思ったんですけど、冒頭でダニエルの弟子五人の名前を覚えるのにちょっと苦労した以外は、スムーズに読むことが出来ました

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