回転ドアは、順番に(穂村弘+東直子)の書評・感想

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回転ドアは、順番に (ちくま文庫)

本書は、共に歌人である穂村弘と東直子が、メールで短歌をつけあい、それを編集者が一遍の物語風に編集することで生み出された、ちょっと変わった詩集です。相手の歌や言葉にインスパイアされる形で短歌が次々と生み出され、数百回にも上るメールのやりとりを経て、男女の出会いから始まるストーリーが生み出されていく
といいつつ僕は、本書を読みながらは、その「ストーリー」をきちんと理解出来はしなかった。文庫化に際して、両著者による自作解説が付記されたようだが、その自作解説を読みながら、なるほどこんなストーリーだったのか、と理解した次第。なんとなく漠然としたものは感じていたけど、説明されなければわからない部分もあった
とはいえ、全体のストーリーがどうとかに関係なく、繰り出される短歌と、短くつけられた散文(詩)が、とても良い。すべてが好きなわけではもちろんないのだけど、短歌も散文(詩)も、凄く好きな雰囲気で、気になってしまうものが非常に多かった
そんなわけで今回の感想は、自分が気になった短歌について、即興で感じたことを書く、みたいな感じで感想を書いてみようと思う

「眩しくて 何も言わないゆびさきに触れる理由を考えていた」

具体的な光景が浮かぶわけじゃないんだけど、なんだろう、気になる短歌だ。「何も言わないゆびさき」という表現が、きっと一番好きなんだな。「眩しくて」というのがどこに掛かるのかちゃんと分からないんだけど、眩しいなっていう情景が、手を繋ぎたいっていう衝動と結びついたのかな

「海で洗ったひまわりを贈る 未発見ビタミン的な笑顔のひとに」

これはもう「未発見ビタミン的な笑顔」っていう表現が図抜けて好きだなぁ。「未発見ビタミン的な笑顔」って、なんかよくわかんないけど、今まで見たことないような印象を残す笑顔だってことだよなぁ。しかも「ビタミン的」っていうのが、わっとした明るさみたいなのを含んでいて、前半部の「ひまわり」と併せて、全体の光の感じがとても素敵

「相撲取りの手形にてのひら当てながらサイダー頼む夏の食堂」

こういうストレートな感じも嫌いじゃないんです。情景はストレートに想像出来るんだけど、「相撲取りの手形」から始まる非日常感と、着地点である「夏の食堂」の日常感の一連の緩やかな連続感がいい感じです

「震えながら海からあがるもういいやモスバーガーに眠りにゆこう」

「震えながら海からあがる」っていうのが、そうそう、って感じします。真夏とかでも、海に入る瞬間と、海から出てしばらくしてからの寒さって、やっぱりありますよね。その「そうそう」っていう感じから、「モスバーガー」っていう固有名詞に振られる辺りもいい。っていうか、なんとなく、固有名詞が出てくると気になっちゃうんだよなぁ

「終電を見捨ててふたり灯台の謎を解いてもまだ月の謎」

「灯台の謎」「月の謎」っていうのが、どんな謎なのか僕らには分からない、でもふたりには分かってるし、解けた喜びを共有出来るし、それは「終電を見捨て」るだけの価値のある喜びで、みたいなのが、するっと伝わってくる感じ。でもホント、「灯台の謎」「月の謎」って、なんだろうなぁ

「観覧車昇るよきみはストローをくわえて僕は氷を噛んで」

これは、「ストローをくわえ」る、「氷を噛」むというのが、男女のあり方を違いをうまく切り取っている感じがして良い気がします。確かに、「ストローをくわえ」るのは女性だし、「氷を噛」むのは男なんだよなぁ、と思えてしまう。飲み物を違った風に切り取って男女の違いを浮き彫りにする感じが素敵

感想

こんなんで内容に触れたことになるのかどうか分からないけど、パラパラページをめくるだけでも気になる短歌が見つかるだろうし、初めから読んでいくと、きっと分かる人には、男女の恋が深まっていく過程が、短歌という短い表現によって浮き彫りにされる感じを味わうことが出来ると思います。物語るという観点からすると、凄く斬新で新しい表現だと思うし、独立した短歌としても気になる作品が多いように思いました。こんなメールのやりとりをずっと続けられる相手がいる、っていうのはなんかいいですね。是非読んでみてください。

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