数学で織りなすカードマジックのからくりの書評・感想

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数学で織りなすカードマジックのからくり

内容に入ろうと思います。
本書は、まさにタイトル通りの作品で、トランプを使ったカードマジックの内、「数理奇術」と呼ばれる、奇術の背景に数学的な理論や理屈が隠れているものについて、奇術的な側面からと、数学的な側面から描き出す、非常に変わった数学の本です。
著者の一人であるパーシ・ダイアニコスは、ハーバード大学で手品に関する数学の研究をしている世界屈指のカードマジシャンだそうだ。
本書については正直なところ、ほとんど書けることがない。というのも、数学の話が凄く難しかったからだ。数学の本はそこそこ読んでいるのだけど、本書は結構ガチな数学の本だった。どうにかギリギリついていける話もあれば、あーこれはもう無理、という話まで、難易度は様々だったけど、とにかく、きちんと理解しようとした場合、本書の数学の描写はとても難しいと思う。一般的でない(というのは僕にとって、一般的な数学の本にあまり出てこない、という意味)数学ばかりが扱われる。本書では、デブロイン系列・万有巡回系列・マンデルブロー集合・サイトスワップ系列など、今まで聞いたことがないような数学の話が描かれていく。知らない数学の話を知ることはとても楽しいのだけど、どうしても難しく思えてしまう。
また、本書で描かれる数学の話が難しく見えるのには、僕にカードマジックの素養がない、という点もあるだろうと思う。カードマジックをそこそこやったことがある人であれば、扱われている現象そのものについて恐らく馴染みがあることだろう。本書では、カードマジックにおける最大の発見であるギルブレスの原理が、マンデルブロー集合とどう関わっているかという話が描かれるのだけど、カードマジックをたしなんだことがある人であればギルブレスの原理はまず間違いなく知っているだろうし、馴染んでいることでしょう。でも僕は、ギルブレスの原理そのものを本書で始めて知ったので、カードがどう動いてどう変化していくのかというイメージを持つこともなかなか難しかった。そういう意味で、数学的に難しいという部分ももちろんあるにはあるのだけど、カードマジックに馴染んでいる人であればそこまで難しさを感じない内容かもしれないとは思う。
本書を読んで感じたことの一つは、「ある種のマジックは、見ていても絶対に分からない」というものだ。
テクニックや手技などによって実現される奇術であれば、カメラで撮ってスロー再生するなど、どうにかして「手がどんな風に動いているのか」を観察出来るかもしれないし、それによってどうにかその奇術を支えている原理を読み解くことが出来るかもしれない。
しかし、数理奇術の場合、それは不可能だ。演者がやっていることを丸々公開したところで、その背景にある原理は絶対に理解できない。何故ならその背景は、本書で描かれているような複雑な数学が支えているからだ。本書では、奇術のネタばらしがいくつも描かれている(奇術を支える原理を数学的に説明しなくてはいけないのだから当然だ)。それぞれの奇術は、準備が必要だったり手順が長かったりするものもあるが、どれも非常に面白いと思う。実際にやることが出来れば(そして、本書で描かれている奇術は、手技を必要とするものではないので、やり方さえ覚えれば誰にでも出来る)、見ている人を驚かせることが出来るだろう。本書で描かれているカードマジックのいくつかを実際に自分で練習してみて、カードの動きなんかをちゃんと体得してから、あらためて本書の数学の話を読んでみたいものだと思う。

感想

本書の基本は、トランプマジックの原理を数学的に解明する、という点にあるが、それだけではない。数学的に得られた結果をさらに新たなトランプマジックに活かせないかという試みもあり、またトランプマジックの原理を数学的に解明するだけではなく、トランプマジックが新たな数学領域を押し広げることさえある。また、トランプマジックから始まった話が、暗号作成やDNAの読み取りにまで発展する。トランプマジックというものを一つの出発点として、様々な方向にその手を伸ばし、知的好奇心でもって前進していく。「手品に関する数学」が、これほどの奥深さを持っているとは、驚きである。本書は色んな意味で新しい知見をもたらしてくれる作品
数学の話は非常に難しいので、スルッと読める作品ではないのだけど、テクニックがなくても出来るトランプマジックがいくつも載っているし、数学が現実の世界で役立つということを意識できる作品でもあると思います

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