短歌という爆弾(穂村弘)の書評・感想

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短歌という爆弾: 今すぐ歌人になりたいあなたのために (小学館文庫)

僕には、今でも空で言える短歌が一つだけある。今まで生きてきて、国語の授業や他の機会などで、ほどほどに人並みに短歌に触れてきたと思うが、これほど衝撃的で、印象的で、一発で覚えてしまった短歌は他にない

「問十二、夜空の青を微分せよ。街の明りは無視してもよい」

理系の人間にでも、「夜空の青を微分」というのは、よくわからないはずだ。分かるようでわからない。ただ、「問十二」からはじまり「無視してもよい」で終わる、まさに試験問題の如くの体裁でありながら、五七五七七の定形にうまく収まっている見事さ、「夜空の青」という普通には存在し得ない色の不可思議さ、そして、「街の明りは無視してもよい」が伝える、「町」ではなく「街」であるからにはそれなりに賑やかさがありそうな場面であるのに、「無視してもよい」ほどの「街の明り」であるという淋しげな情景などが、一瞬にして僕の内側にウワッと入り込んできたのだろうと思う。後にも先にも、本当に、これほどに衝撃を受けた短歌に出会ったことはない
解説の枡野浩一氏は、本書は初心者向けではないと書く。そう、本書は、僕のような短歌初心者には、ちょっと難しいような気がするのだ。これはある程度、短歌を作ったことがある、触れたことがあるという人が読むことで、「実感」まで辿り着く。そんな文章なんじゃないかな、という感じがした
とはいえ、難しいばかりではありません。本書の前半部は、僕のような初心者でもなかなかに興味深い内容
本書の前半では素人の短歌を評したり添削したりする、という内容になっていて、非常に面白かった。なるほど、そういう視点で短歌を読み解くのか、そういう風に言葉をいじれば印象が変わるのか、ということが、軽妙なやりとりによって紡がれる

本書の様々な場面で言及される、「短歌の作り方」について、気になったものをいくつか取り上げてみます

『善意や好意や明るさの領域だけで書かれた歌には、本当の力は宿らない』

『短歌が人を感動させるために必要な要素のうちで、大きなものが二つあると思う。それは共感と驚異である。共感とはシンパシーの感覚。「そういうことってある」「その気持ちわかる」と読者に思わせる力である。驚異=ワンダーの感覚とは、「いままでみたこともない」「なんて不思議なんだ」という驚きを読者に与えるものである』

『短歌という詩形においては、感覚の鋭さとか言葉の斡旋の巧みさといったこと以前に、こうした心を一点に張る能力がしばしば決定的な力を持つ』

本書では、穂村弘が何故短歌に向かったのかという、そのモヤモヤした気持ちや衝動が描かれている

『無色透明な孤独、贅沢な退屈、強すぎる自意識、そんなものたちに取り囲まれて、私たちは身動きがとれなくなっている。友達といくら長電話をしても寂しい。メールを書いても書いてもさみしい。新しい腕時計を買ってもブーツを買ってもさみしい。そして、いつまでもいつまでも(時には結婚しても子供ができても)理想の恋人を夢見ている
だが、何かを見つけるの何かって、いったいなんだ。これだというものって、いったいどれだ
経験的に私が示せる答えがひとつある。それは短歌を作ってみることだ』

穂村弘が感じた、世界との相容れなさみたいなものが凄く共感できて、僕も子供時代のある時からずっと同じような感覚を抱いたままここまで来ている。僕は、ただ目を反らし続けてきただけかもしれない。ないものとして、見なければないんだと思い込めるものとして、気づかないフリをし続けてきただけかもしれない。僕も、世界の扉を吹っ飛ばすような爆弾を手に入れたいと思う

感想

初心者にはなかなかハイレベルな作品だと思うけど、刺激的ではあるなと思います。なんとなく、ほよほよした感じがする「穂村弘」という歌人に対する見方が変わった気がします。

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