二五時間説の誤解と真実

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時間の分子生物学 (講談社現代新書)

二五時間周期って本当?

どこかで耳にしたことがあるかもしれませんが、従来、人間の生物時計は約二五時間の周期だと言われてきました。これは、洞窟などに人間を閉じこめて、勝手気ままに生活させると、平均して約二五時間周期で生活したという研究に基づいています。

しかしよく調べてみると、この研究の条件は、マウスなどの動物実験で使われる条件とはまったく異なるものでした。

まず、マウスは夜行性で、人間は昼行性です。そして、もっとも重要な違いは、人間の場合、自分の意志で明かりをつけることが許されていたことです。このような条件をアドリブ条件と言います。アドリブ条件下では、自分でつけた電灯の光によって、生物時計が影響を受けてしまいます。そのため、まったく光などの刺激がない条件下でのフリーラン周期とは、異なる結果になります。

そこで、完全に外部からの刺激のない条件下での人間の概日周期を、アメリカのチャールズ・ツァイスラーのグループが測定しました。

一九九九年に彼らがサイエンス誌に発表した論文によれば、完全に外部の影響をのぞいた環境下では、年齢によらず概日周期はほぼ二四時間に近い値で、個人差も三〇分以内とされています。これは、それまでの概日周期が二五時間であるという常識を変えるものでした。ただし、上述のように、アドリブ条件下では二五時間に近いのも事実なので、二五時間という説も間違いとは言い切れません。なお、好き勝手に電気をつけたり消したりしながら生活をすると二五時間になるのは、光が一日あたりで合計すると、生物時計をやや遅らせるということを示します。

ツァイスラーのグループは、ブリガム・ウィミンズ病院の一フロアーの五部屋を改造して研究に使用していますが、その管理は非常に厳密です。まず、外部からほんのちょっとでも音や光が漏れないように、完全に二重の壁になっていて、入り口には前室があり、研究中は外部と遮断されます。研究の対象となる被験者は、リアルタイムの情報に接することや、外部との電話・メールなどを禁じられ、娯楽としては本やビデオによる映画などだけが許可されます。

食事は、外のスタッフが運びますが、五部屋に対してスタッフの総数は五〇人もいます。被験者にご飯を運んだり、話をしたりするスタッフがいつも同じ時間に来ると、被験者に時刻を「悟られてしまう」ので、勤務のローテーションはわざと不規則にしてあります。

被験者は全米からボランティアを募りますが、最長の実験では、六週間も世間から隔絶された場所で過ごすため、ボランティアと言っても、かなり高額の謝礼が支払われます。六週間の場合、一〇〇万円を超える額です。...

なぜ目覚まし時計が鳴る直前に目が覚めるのか

ツァイスラーの同じ論文では、被験者の概日周期の最短は二三時間五三分、最長は、二四時間二八分で、三〇分強の個人差によるばらつきがあるという結果でした。しかし、二四時間二分から一七分までの一五分間に、全体の八割近くの人が集まっているので、個人差によるばらつきはかなり小さいようです。このばらつきの小ささが、被験者の数が少ないとはいえ、彼らの論文が評価を受けている理由にもなっています。しかし一五分程度の個人差であっても、実は、これが日常生活の中ではかなり増幅されて、生活パターンなどには大きな影響を与えているという研究もあります。

では、この生物時計はどの程度の時間差を識別できるのでしょうか。この点にヒントを与えてくれる、面白い研究があります。大切な用事があるからと目覚まし時計をセットしておいたら、ベルが鳴る数分前にぱっと目が覚めたことはないでしょうか。このような経験を実験的に調べた研究です。

朝八時頃に起きるように指示された時と、いつもより二時間早く朝六時に起きるように指示された時で、血液中のコルチゾール(副腎皮質ステロイドホルモン)の値を、前日の夜から、継続的に測定します。このホルモンは、普通、起床時間の一時間ほど前から、血液中の値が増えるものです。つまり、起床する用意を夜の間から始めるホルモンです。

すると、いつもより早い六時に起きるように指示された時は、六時に合わせて、このホルモンの値が増え始めるのです。前の晩に、いつもよりも早く眠ったわけでもないですし、夜中に緊張して目を覚ましたわけでもありません。このホルモンが増えることと、睡眠が浅くなることの関係は不明ですから、目覚ましが鳴る直前に目が覚めるという現象の直接の証明にはなりません。しかし、「明日、早く起きたい」、あるいは「起きなくてはいけない」という「意志」が、眠っている間にも働いていて、眠っているはずの脳が生物時計を使って、今何時なのかを推測して、起きるための準備を始めていることは確かなのです。

この研究から考えて、生物時計は、「今だいたい朝だ」というような大雑把なものではなく、少なくとも一〇分から一五分程度の差は、十分感じることのできる時計だということがわかります。つまり、短針だけでなく長針もある時計です。人によっては、目覚まし時計が鳴る一分くらい前にいつも起きることができる、と豪語する人もいますから、そんな人の生物時計には、秒針もあるのかもしれません。

さらに、この研究で興味深いのは、「意志」がホルモンの分泌という内分泌系を、睡眠中にコントロールすることができるらしいということです。意志によって左右することができる機能を動物機能、意志によって通常は直接的に制御することができない機能を植物機能という言葉で呼ぶことがありますが、ホルモンの内分泌作用は一般に植物機能に分類されます。また血圧・体温・消化吸収などを司る神経のことを自律神経と言いますが、この自律神経機能も、普通、意志では制御できません。それを意志の力で、それも睡眠中に制御するというのは、とても不思議なことです。

感想

この本は素晴らしすぎる一冊です。科学好きの人にはたまらない内容です。睡眠というより科学本です!おすすめできる本です。

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