ヒッグス 宇宙の最果ての粒子(ショーン・キャロル)の書評・感想

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ヒッグス 宇宙の最果ての粒子

『これまでけわしい道のりを経ながらもなんとかLHCの完成まで関係者を導き、LHCの建設計画で他の誰よりも責任のあったウェールズの物理学者リン・エヴァンズは、これら二つの実験の申し分のない一致を目の当たりにして、「あっけにとられた」と告白している』

『セミナーを聴くために部屋にいた83歳のヒッグスは明らかに感動した様子で、「生きてるうちにこの瞬間が来るとは思わなかった」と語った』

『その後の記者室で、記者たちはヒッグスからもっと聞き出そうとしたが、ヒッグスは、今日みたいな日に注目されるべきなのは実験家たちだ、と言ってコメントを控えた』

2012年7月4日、世界中を歓喜させた発表が行われた。「神の粒子」と呼ばれ、半世紀近くも前にその存在が予言された「ヒッグス粒子」が、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を擁する、ジュネーブの欧州原子核研究機構(CERN)によって「発見」されたのだ。本書の原書が出版されたのは2012年の11月であり、その時点ではこの7月の発表が最新の情報だった。その後2013年3月に新たな発表が出され、「ヒッグス粒子」の発見は間違いないものとなっている。これによって、ピーター・ヒッグスはノーベル賞を受賞した。

さて本書は、そんな「ヒッグス粒子」についての本だ、と書いてしまいたいところだが、それはちょっと不正確かもしれない。正確には、「ヒッグス粒子についての物語」についての本だ、と書くべきかもしれない

『ヒッグス粒子の探索は単に、基本的粒子や難解な理論がどうのという話ではない。予算、政治、嫉妬の物語でもある。計画には非常に多くの人々、前例のない規模の国際協力、そして少なからぬ数の技術的ブレークスルーが関わっている。そんな途方も無い計画を実現させるには、ある程度、ずつ賢さや取り引き、そしてときには、いんちきも必要となってくる』

本書もまさに、「難解な理論がどうの」という本ではない。もちろん、ヒッグス粒子がどんなものであるのか、そしてそれを説明するために物理における現時点での最高到達点である「標準模型」についてかなり詳しく説明される。その「物理的な部分」の説明も非常に分かりやすくて、入門としてはかなり良いのではないかと思うけど(とはいえ、それでもやはり、元の物理自体が難しいから、すんなり理解できるわけではない。僕も、全部理解できたわけではない)、それ以上に本書では、「物理的ではない部分」にかなり分量が割かれている。これは、科学者によって書かれる理系ノンフィクションには、結構珍しい傾向ではないかと思う。本書の著者は、素粒子物理学が専攻ではないという。そんな客観性もあって、本書のような物理的な部分と物理的ではない部分が非常に面白い形で融合した作品になっているのかもしれない。
この感想では、本書で描かれてる「物理的ではない部分」に着目しようと思います。とはいえ繰り返しますが、本書の「物理的な部分」はかなり易しく書かれていると思うので、文系の人でも読むのにチャレンジしてみる価値はあると思います。

『ヒッグス探索は干し草の山から少数の干し草を探すようなものだ。干し草の山から針を探すなら、見つければ、見つけたとすぐわかる。しかし、全部干し草だとそうはいかない。判別する唯一の方法は、干し草の山にある干し草を一本一本、全部調べるしかない。すると突然、ある長さの干し草だけが他の長さのものよりも多いことが分かる。ヒッグス探索でしていることは、まさにこういうことだ』

この喩えは非常にわかりやすいし、面白いと思った

感想

ヒッグス粒子がどんな性質を持つのか、ということは一切触れなかったけど、本書で例として挙げられている「さかさ振り子(P166)」や、「アンジェリーナ・ジョリーの喩え(P162)」などは、非常にイメージしやすく、わかりやすいと思う。もちろん、ヒッグス粒子の話は、なかなかに難しい。というか、「標準模型」の話がまず難しい。とはいえ、やはり物理は面白いなと思うし、人間の話も面白いなと思う。「ヒッグス粒子」という、たった10のマイナス21乗秒しか存在できない存在のために、人類が費やした莫大な金とエネルギーと努力。そのすべての結晶が綴られた作品だと思います。是非読んでみてください。

ヒッグス 宇宙の最果ての粒子

ヒッグス 宇宙の最果ての粒子

  • ショーン・キャロル

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