脱北、逃避行(野口孝行)の書評・感想

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脱北、逃避行 (文春文庫)

内容に入ろうと思います。
本書は、商社など企業に勤めていたものの、北朝鮮からの脱北者の問題に関心を持ち退職、脱北者支援のNGO(本書の中では「基金」と呼ばれている)で活動を開始し、中国国内を3000キロ移動、ベトナムルートで逃避行を続けた経験を持つ著者によるノンフィクションです。

『彼女たちには、安全で自由な環境の中で幸せを感じてほしい。そのためなら、私の身にどんな危険が降りかかろうとも構わない。私はジョンスンの横顔を眺めながら、そんな使命感に駆られていた』

本書の中には、こういう表現が幾度も登場する。著者は、本当に心の底から北朝鮮の問題に強く関心を持ち、心を痛め、自分を犠牲にしてでも脱北者の役に立ちたい、という強い気概のようなものがひしひしと伝わってくる。そんな著者だからこそ、アルバイトを続けながらお金にならないNGOの活動を続け、あまつさえ、ひと度発覚すれば中国の公安に捕まってしまう危険な任務を、自ら引き受けるのだ。
しかし、何故中国国内の危険は移動なのか。
北朝鮮からの脱北者は、国際的には「難民」という扱いが妥当であるらしい。中国もそれに関する国際条約を批准しているため、表向き脱北者の支援をしなくてはいけない国のはずだ。
しかし中国政府は、脱北者を「難民」ではなく「不法入国者」と捉え、厳しく取り締まっている。
昔からその傾向はあったらしいが、より厳しくなったのは、2002年3月に実行されたスペイン大使館への大規模な駆け込みからだ。
脱北者を救助する道は、隙を見て大使館に駆け込むか、あるいは脱北者支援をしている国まで「不法入国」を繰り返しながら辿り着くしかない。それまでも小規模な駆け込みは何度も行われていたが、2002年のスペイン大使館の駆け込みは周到に計画されたもので、CNNのカメラマンによって密かに撮影され、その様子が全世界に放映された。
計画者は、これによって中国に圧力を掛け、脱北者支援へと転向させようという目論見だったらしいが、中国政府はまったく別の方向に動く。脱北者の取り締まりをさらに厳しくしたのだ。スペイン大使館への駆け込み以前は、大使館への駆け込みが脱北者を救う安全なルートだと思われていたのだが、それ以降、大使館ルートは絶望的な手段と見られるようになった。実際著者が偵察のために大使館周辺をサイクリングした際に見たのは、驚くべき光景だった。大使館周辺を鉄条網などでものものしく囲ったり、中国の公安警察がパスポートチェックをしていたりする。大使館ルート以外の脱北者の取り締まりも、厳しくなったようだ。
そんな事情で「不法入国者」と捉えられている脱北者たちを救い出すためには、「不法入国」を繰り返して第三国にたどり着くしかない。かつては、モンゴルルートが有望だったが、現在有望なルートはベトナムルートであり、脱北者が多く住む中国北部から3000キロという長い距離を逃げ続けなくてはならないのだ
そんな脱北者支援を、中国には好きで何度か行ったことはあり、色んなところをバックパックで旅行したことはあるが、中国語が喋れるわけでもなく、このようなミッションに従事したことがあるわけでもない著者が行うことになったのだ。本書の前半は、その逃避行をいかに成し遂げたか、という話が描かれていく。

感想

脱北者支援のための逃避行、そして公安警察による拘束と留置所での生活という、なかなか特殊で稀な経験をした著者の迫真のノンフィクションです。著者は、これほどの体験をしたというのに、まだ脱北者支援に関わるつもりだと表明している。凄い人だと思う。改めて、北朝鮮、そして中国という国について考えさせられる作品でした。是非読んでみてください。

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