<正常>を救えの書評・感想

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〈正常〉を救え 精神医学を混乱させるDSM-5への警告

本書は、アメリカで起こっている話である。
だからと言って、日本人の僕らが読まなくていい、ということにはならない。
本書で描かれているような状況は、確実に、日本でも生まれつつあるように僕には思えるからだ。
一番分かりやすいのは、「新型うつ病」ではないだろうか。ネットで調べるとこんな文章が出てくる。

『多くは仕事がらみのストレスから発症する。仕事に向かうと症状が悪化、再発するのに、遊びや趣味は楽しめる、自己愛が強く、何でも他人のせいにするといった性格が多い、などの特徴がある。精神科や心療内科は比較的簡単に「抑うつ状態」の診断書を出し、病気休暇を認めることから職場のメンタルヘルスの重要課題にもなっている。休職期間に海外旅行を楽しみ、帰国するともとに戻る、などの事例から仮病と疑われ職場とのトラブルとなることも少なくない』

どうだろうか。これを「病気」と呼んでいいかどうか。その辺の判断を僕自身が下したいわけではないのでそれはしないけど、「新型うつ病」というのは今日本でも「流行り」始めているのではないかと思う。それは、本書で描かれている状況と同じだ。
他にも、精神病ではないが、「ゲーム脳」というのも有名ではないだろうか。ゲームをやりすぎて脳がおかしくなっている、という研究結果に基づいているようだが、僕が知っている知識だと、この「ゲーム脳」というのは「エセ科学」だと言われている。とはいえ、マスコミなんかでも時々「ゲーム脳」というのが取り上げられたりするでしょうし、これを根拠に、子供にゲームを制限させたりする親もいるでしょう。
本書では、アメリカで現在起こっていることをつぶさに追うことで、鋭い警告を発している。冒頭で書いたようにそれは、アメリカだけに限らない問題なのだが、その理由は、副題にもある「DSM-5」が関係している。
これは「精神疾患の診断と統計マニュアル」と呼ばれるもので、最新のものが「DSM-5」となる。そして著者は、この一つ前の「DSM-Ⅳ」のプロジェクトマネージャーとして先導した人物であるのだ。この「DSM」は、毎年数十万部売れる大ベストセラーであり、世界中でこれを基準に精神疾患の診断が行われているのだという。日本でこの「DSM」が遣われているのかどうか、それは本書には書かれていなかったので分からないのだけど、僕の知識では、日本は特に精神疾患の研究で歴史的に先行している国ではなかったと思うから、「DSM」やそれに準じる何かをベースにしていたりするのではないかと思う。それは僕の憶測でしかないけど、もしそうであるとすれば、本書で描かれていることは、決して他人事ではないということになる。
著者は「DSM-Ⅳ」に関わった際、非常に慎重に厳密に作業を進めた。そこに著者は絶対の自信を持つ。研究の裏付けがないものは無闇に変更を加えず、実際にその精神疾患を患っている人を診断漏れするリスクを取ってでも、出来るだけ精神疾患を患っているわけではない人に無用なレッテルが貼られないようにつくり上げた。
しかし著者は、「DSM-Ⅳ」が発売された数年後に、著者が「診断のインフレ」と呼ぶ状況を惹き起こすことになったことを悔いている。著者自身の責任ではないとはいえ、「もっと努力して、防衛のために最善を尽くすべきだった」と後悔をしているのだ。
「診断のインフレ」とは、「特に病気でもない者に、精神疾患のラベルを貼るような診断の急増」ということだ。アメリカではこの「診断のインフレ」が今蔓延していて、著者はそれを大きな社会問題だと捉えている。しかし、この流れを止めることは容易ではない

感想

日本ではまだ、アメリカほどの状況にはなっていないと思う。詳しくは知らないけど、そこまで「薬漬け」にされているというような印象もないし、製薬会社のマーケティングに屈しているという実感もない。とはいえ、日本がいつアメリカのような状況に陥るか、それは誰にも分からない。「新型うつ病」のような、「本来では病気ではない(ないかもしれない)ものを病気として認める」ような動きも出始めている。油断は出来ない。本書は、そんなマーケティングが支配する世の中に生きる僕たちに、「患者」としての指針を与えてくれる作品だ。是非読んでみてください。

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