「進化しすぎた脳」 人間の脳がもつ驚くべきメカニズム

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進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

概要

著者は東京大学大学院の薬学系研究科准教授。「海馬」などの著書あり。
高校生を対象にした対話形式の講義をベースに、ユニークな実験結果を織り交ぜながら、人間の脳がもつ驚くべきメカニズムを明快に考察する。

人間は脳の力を使いこなせていない

・哺乳類の大脳皮質は、人間もネズミも同じく6層。各動物が6層を採用するのは便利なシステムだからだろうが、その理由はよくわからない。

・視覚や聴覚など、脳の各部位で機能が異なる。が、その役割は変更できるだけの柔軟性をもつ。視覚情報が聴覚野に入るよう神経をつなぎ換えても、正しく見えたという。

・また手足を欠損すると、それに対応していた脳の部位が退化する。脳機能は身体のあり方から大きく影響を受けるということ。コンピュータと大きく違う部分だ。

・電極を脳に刺し報酬系(快を感じる)などを刺激することで、ネズミをラジコンのように操ることができる。これが人間で行われた場合、それでも自分自身だと言えるか?

・水頭症で頭蓋骨の9割が空洞でも日常生活に支障がない人がいる。脳の全能力を使わなくても生きていくには十分なのだ。いわばヒトの脳は「過剰に進化」している。理由は、将来進化によって身体が変異しても適応できるように、能力の「余裕」が必要だからでは。

人間は脳の解釈から逃れられない

・錯視や盲点の実験からわかるのは、人間は外界をありのままではなく、脳内で解釈・補完して見ていること。これは無意識の所作なので、誰も逃れられない。

・人間の視神経は100万本。多いように思えるが、要するに100万画素しかない。なのにギザギザの画面にならないのは、脳内で足りない情報を補完しているから。

・著者が考える意識の条件は(1)表現を選択できる(2)短期記憶(3)可塑性。すべて兼ね備えるのが「言葉」だ。言葉によって抽象的な思考が可能になる。

・危険回避の命令を行う扁桃体という部位は、感情を生む役割はない。「怖い」と思って危険を避けた時は、まず扁桃体の命令で避けた後に、大脳皮質で「怖い」という感情が生まれる。それを後付けで「怖いから避けた」と言語的に了解したにすぎない。

・「好きな時にボタンを押せ」という実験を分析してみると、実は脳の運動系が「押す準備」をした後で、初めて「押そう」という意識が生まれることが分かった。これは日常的な感覚と全く逆。自分の意思で動いているつもりでも、実は無意識の行動が先行している。

人間はあいまいな記憶しか持てない

・コンピュータに比べると、人間の脳の記憶はあいまいだ。だが、そもそも丸暗記は融通が効かない。脳が行うのは「汎化」という作業。厳密に覚えずに、事物の特徴や隠れたルールをおおまかに抽出する方が、なにかと応用がきくから。

・情報伝達は、活性化した細胞が隣接細胞の隙間(シナプス)に神経伝達物質を放出することで起こる。が、この放出は、神経が活性化しても必ず起こるとは限らない。記憶のあいまいさはここに由来する。脳神経があえて不確実性を作り出すのだ。

・物理的に、神経の情報伝達は0.001秒かかる。つまり0.1秒で判断を下すには細胞100個分しか進めない。だが、人間は瞬時の判断を日常的に行っている(=100ステップ問題)。脳は有限個の神経をつなぎ合わせ、うまくループさせて使っている。

人間は進化のプロセスを進化させる

・人間はこれほど進化しているのに、アルツハイマー病などの病気が淘汰されなかったのはなぜか。それは体の進化を止め、代わりに道具などで周囲の環境を変えるようになったから。自然淘汰とは違う、新しい「進化のしかた」を人間が作り出したというわけ。

僕たちはなぜ脳科学を研究するのか

・脳の視覚野は、映画を見ていても暗闇でも活動量があまり変わらない。つねに自発活動を行っているということ。また、網膜に入った情報のうち、大脳皮質に伝わるのはわずか3%だけ。残りの97%は脳が補完することで「視覚」を生み出している。

・ある記憶実験によると、後から思い出せたかどうかは、覚えた瞬間の脳のゆらぎパターンによって決まっていた。逆に言えば、あなたがそれを将来思い出すかどうかを、実験者がゆらぎを見て予言できることになる。

・脳があえてゆらぎを作り出すのは、環境への適応力を高めるためではないか。適度にランダムな行動を取ったほうが、さまざまな生活パターンを試すことになる。あらゆる環境の変化に対応できるようになり、進化に有利なのだ。

・どんな態度で脳科学を学ぶべきか。実用性にこだわりすぎる必要はないが、いつか成果が役立つことを考え、常にアウトプットを意識しつつ研究していく必要がある。

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