ネゴシエイター 人質救出への心理戦(ベン・ロペス)の書評・感想

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ネゴシエイター―人質救出への心理戦

「誘拐」と聞いて、どんなイメージを抱くだろうか。
日本人にとっては、現実の世界での「誘拐」というのは、あまり馴染みはないだろう。警察に通報していないだけで、現実的には誘拐が頻繁に起こっている、という可能性もゼロではないけど、日本の場合その可能性は低いように思う。
いきおい、日本人にとって「誘拐」というのは、小説やドラマのイメージが強いだろう。
そこでは「誘拐」はどんな風に描かれるか。
まず、人質となる人物が誘拐され、家に犯人から電話がある。その後家族は警察に連絡し、警察が逆探知などの準備を進める。家族は、身代金を用意し、「警察には連絡していない」と言いながら、当然警察は犯人確保のために、身代金の取引現場で犯人を確保しようとあれこれ策を練る。
大体こんな感じだろう。細部に色々差はあれど、「警察に連絡をする」「身代金の受け渡し現場で犯人確保を目指す」というのが、僕ら日本人にとっての「誘拐」のイメージではないだろうか。
さて、ここで衝撃的なデータをいくつか紹介しよう。

『誘拐事件は毎年二万件以上報告され、その内当局に通報があるのは十分の一』

『世界で起きる誘拐の件数は、過去十二ヶ月で100%増加している』

『誘拐事件の70%は身代金の支払いで解決する。力ずくでの人質救出はわずか10%』

『コロンビアでは誘拐が一日に十件発生し、誘拐犯が起訴されるのはたったの3%。対照的に、アメリカ合衆国では誘拐事件の95%が起訴に持ち込まれている』

僕らにとって「誘拐」というのは「犯罪」という括りに分類されるだろう。もちろん、それは日本だけでなく、どこであっても「犯罪」であることには変わりはない。しかし、本書を読むと、「誘拐」というのは既に、「犯罪」ではなく「ビジネス」の枠組みにカテゴライズされているのだろうな、と思えてしまう。著者も本書の中でこう書く。『学校でどう教えていようと、犯罪は割にあう』
本書の著者は、K&R(キッドナップフォーランサム 身代金目的の誘拐)専門のネゴシエイターだ。心理学を学んだ後、誘拐交渉の訓練を受けたわけでもないのだが、自力でその世界を切り開いていった。当然、「ベン・ロペス」というのは仮名だ。また、人名・組織名・場所など、具体的な事例と結びつきそうな情報はすべて変えてあるという。まあ、当然だ。解説氏が、著者のこんな言葉を紹介している。

『当たり前だが、わたし自身が誘拐される危険性を犯したくない。実際、わたしが誘拐されたら、誰が公証人をつとめてくれるのかね』

確かに、その通りである。
本書では、著者が今まで関わった事例の中から一部(恐らく、印象的だったものでしょう)と、何故著者がネゴシエイターになっていったのかという生い立ちなどが描かれていく。
著者が手がける事例は、なかなか刺激的だ。もちろん、印象的だった事例を選んでいるからそうなっているのだろうけど、ドラマのような展開を見せるものもある。そして、それらの過程を描きながら、ネゴシエイターとして押さえなくてはいけないポイント、誘拐交渉について一般の人が抱くイメージとのギャップ、誘拐された場合の心得などを挟み込んでいく。
「誘拐」が完全に「ビジネス」になっているというのは、誘拐された家族が警察に通報しないことがほとんど、という点に現れている。そもそも政情が不安定な国では、警察官が誘拐に関わっていることも多いという。それが広く知られているため、警察に通報しないという人も多い。では、被害者家族は一体誰に頼るのか。

感想

日本の「誘拐」(の物語)の感覚に慣れていると、どうも本書で描かれているような「ビジネスライクな誘拐」は、なんか違うなぁ、と思ってしまうんだけど、「なんか違うなぁ」と思ったってこっちが現実なんだからどうにもしようがない。日本の「誘拐」と、本書で描かれる「誘拐」を同じもので括ってはいけないみたいだ。そういう意味で、ちょっとイメージと違ったと思う人もいるかもしれない。僕も、若干そう思った。全体的には、それなりに面白い作品だとは思うのだけど、そのギャップにどうも馴染めない感じだった。いや、これは、作品のせいというよりも、僕が(というか日本人が)抱いている「誘拐」のイメージの方の問題だと思うんですけどね。

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