モバイルハウス三万円で家をつくる(坂口恭平)の書評・感想

1569views黒夜行黒夜行

このエントリーをはてなブックマークに追加
モバイルハウス 三万円で家をつくる (集英社新書)

僕はこの著者のこと、ホント好きなんだよなぁ。

早稲田大学の建築学科に入学した著者は、建築学科にいながら、こんな疑問を抱く。

『大学で建築を学んでいるときから、「人間は土地を所有していいのか」という根源的な疑問ばかり考えてしまっていた。
建築をやっている人間としては一番考えてはいけないことである。
そんなことをしていたら、現行の建築の仕事なんて何一つすることができない』

そして、大学を卒業後、様々な活動をしていく中で、次第に著者は、「家に莫大なお金をつぎ込むこと」「家賃を払うこと」に疑問を抱くようになる。

『今の住宅は、単純に頭で理解するということが困難なのである。マンションがなぜ三千万円もするのか、購入する人は何も分かっていない。ただなんとなく、家というのはそれぐらいするんだろうという思いこみで購入している。誰も、部材一つ一つの見積書なんて要求しない。完全にブラックボックスと化しているのである。
僕は建築業界のすべてを変えたいなどと思っているのえはない。何千万円もする家を買いたい人、つまりお金を持っている人は買えばいい。しかし、借金をして買うのは馬鹿らしいのではないかと提案したい』

しかし著者は、社会や法律を変えるのは時間が掛かり過ぎると判断する。

『法律やルールや制度やシステムや行政や貨幣制度などを変えようと、必死に同一平面上で行動するのではなく、全く別のレイヤー(層)に自らを置き、思考の変化だけでこの現状の固まった社会を新しく見直すのである』

そんな思考の末に生まれたのが、「モバイルハウス」という発想である。
発想の根本は、単純だ。そもそも「家」はどう定義されているかというと、「土地とくっついているかどうか」である。「不動産」というぐらいだし。だったら、「移動できる家」、もっと言えば「車輪がついた家」を作ってしまえばいいのではないか。

『つまり、モバイルハウスを建てるには、建築士の免許も不要で、さらに申請をする必要もなく、不動産の対象にもならないので固定資産税からも自由である』

では、モバイルハウスをどこに置くのか。そこにも著者はひらめきで答えを導き出す。
「駐車場」である。
「モバイルハウス」を「手作りのキャンピングカー」と称して駐車場に置かせてもらうことは出来ないか。
誰にでも手に入る材料で、誰にでも作れる設計で(実際本書の巻末には、中学生がモバイルハウスを作ったという話が載っている)、3万円以下で、安い賃料で借りれる駐車場に置ける「家」を作ることが出来ないか。著者の挑戦は、そんな発想からスタートするのだ。
完成されたモバイルハウスで実際に生活をしてみた著者は、「家」というものの概念を拡張させる思考にたどり着くことになる。
きっかけの一つは、東日本大震災だ。あの災害によって、土地や家を奪われた人がたくさんいることだろう。そこに、モバイルハウスという存在の可能性を見出す。壊れても修復が可能で、しかもいつでも移動できる。そんな「家」を持つようになれば、災害の多い日本での生活も新しい視点で見つめなおすことが出来るのではないか。
また、著者がモバイルハウスを着想した背景には、著者の初期のライフワークであったホームレスの家(0円ハウス)の知恵がある。実際に、著者が一番初めに作ったモバイルハウスは、「多摩川のロビンソン・クルーソー」と著者が呼んでいるホームレスにかなりの助けを得て完成させることが出来た。
著者は、鈴木さんという凄いホームレスの0円ハウスを見て、『皮膚の延長線上にあるような空間』と表現する。

感想

本書を読んで、あらためて「家」というものを考えさせられた。僕は昔から、家なんて欲しいと思ったことは一度もないのだけど(未だに、莫大な借金を背負ってまで家が欲しいという人の気持ちはよくわからない)、改めてその思いを実感させられた。
色んな生き方があっていいけど、僕は、今の世の中や社会の仕組みに「なんか変だな」と感じる場面が多い人は、素敵だなと思う。僕自身も、そういう人間でありたいと常に思っている。本書の著者は、まさにそのトップランナーと言っていいかもしれない。しかも、疑問を持つだけでなく、行動に移し、しかもそれを世に問うている。素晴らしい。これからも僕は、坂口恭平の動向には注目していくでしょう。是非読んでみて下さい。

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く