資本主義卒業試験(山田玲司)の書評・感想

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資本主義卒業試験 (星海社新書)

本書は、漫画家であり、「非属の才能」という新書を出した著者の初の小説です。
主人公は、コメディタッチの恋愛漫画でそこそこヒットと飛ばし、今「希望の言葉」という対談漫画を続けている漫画家・山賀怜介。彼は、人の何倍もの努力をして、漫画家として成功を勝ち取った。子供の頃からずっと信じてきたのだ。夢を追い続ければ、必ず幸せになれる、って。
山賀は、幸せにはなれなかった。それどころか、夢を叶えたことで、余計人生が苦しくなった。
妻と子共はいなくなった。税金対策のためにあれこれ節税対策をしていたら、毎年の収入が1500万以下になると赤字になってしまうような状況に追い込まれた。マンガを描けば、必ずヒットを求められる。
そんな生活は、苦しくて仕方がない。
自分は子供の頃から漫画家になりたくて、それを目指してひたすら努力してきた。それで幸せになれるはずだったのに、どうして今こんなに辛いのだろう。
山賀は、どうしても答えを知りたくなった。
『資本主義卒業試験』というイカレた試験をし、受講生全員を落第にしたという大学教授がいる。「希望の言葉」の取材で出会った一人だ。山賀はその教授に、どうやったら資本主義を卒業できるのか答えを聞きに行くべく、深夜の研究室に忍びこんだ。しかしそこには、その教授の試験のせいで大学の卒業が出来ず決まっている就職をフイにしそうになっているリコ、付き合っていた彼女がロハスに目覚めついていけなくなった鈴木大地、一流商社に勤め世界中の貧困国から金を絞りとりまくった黒沢の三人がいて…。
というような話です。
これは本当に、色んな人に読んでほしい作品です。僕は本書で書かれていることは、実は結構前から気づいていた。というか、子供の頃からずっと僕の違和感の中心にあった。もちろん、きちんとした言葉に落とし込んだのはずっとずっと後のことだけど、子供の頃から、この社会はどこかおかしい、という違和感にずっと悩まされてきたのだ。
僕は、色々悩んで、あれこれ考えて、色んな人に迷惑を掛けながら、少しずつ、自分が引きずり込まれそうになっている『沼』の正体がわかってきた。どうやってその沼から抜け出せばいいのか、自分で考えて、今僕は、それなりに沼から抜け出せたところで生きていけているとは思う。あくまでも、それなりに、だけど。
僕は、世間の人を見ていると、大丈夫だろうか、と心配になることがある。この『狂った』社会で生きていくために、割りきってそんな風に生きている人ももちろんいるだろう。でも中には、自分が『奴隷』にされていることに気づかないままで、『狂った世界』を『美しい』と感じたまま生きている人も、凄くたくさんいるんだろう、という気がするんです。
僕は子供の頃からとにかく、金持ちにだけはなりたくない、とずっと思っていた。
もちろん子供の時点で、その理由を明確に言葉に出来ていたわけではないけど、こういうことを考えていたはずだ。金持ちになることは、とにかくめんどくさい。金持ちになるということは、物凄く大きなものを守らなければならないというプレッシャーと同じになる。自分が持っている金を誰かが狙ってくるかもしれないし、知識がないままでは不必要に損したりするかもしれない。お金を持っているというだけの理由で周りの人間の態度も変わるだろうし、お金を持っているというだけの理由で本当にやりたいことが出来なくなるということだってあるだろう。

感想

どうしたらいいかという、はっきりと明確な答えは本書にもない。でも、どう歩いていけばいいのかという指針は提示してくれる。まず一番大事なことは、『当たり前』を疑うこと。今の日本は狂っているという事実を認めること。それが第一歩だ。そこからどう歩くかは、自分で考えるしかない。『当たり前』についていくだけの人生ではない、自分で自分の道を踏みしめていく、そういう生き方を選ぶ以外にはない。それは、辛く険しい道のりになるだろう。それでも、僕は思う。『当たり前』についていく生き方より、遥かにマシだ、と。『当たり前』は、あなたに何も保証はしてくれない。ただ幻想を見せてくれるだけだ。自分で道を選べば、少なくとも、自分自身は自分のことを信じてやれる。それは幻想ではなく、希望だ。
本書は、僕らが生まれた時から掛けさせられている『当たり前』という名前のメガネを無理矢理引き剥がしてくれる、そんな作品

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