オクターバー・ガール 螺旋の塔に導くものは(伊藤螺子)の書評・感想

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オクターバー・ガール 螺旋の塔に導くものは (徳間文庫)

高校生の興梠(コオロギ)真尋は、自分が気に入った音楽を聞くと、その音楽から連想される世界へとトリップしてしまう、という特異体質の持ち主。小学生の頃、父が運転する車に乗っている時、ラジオから流れて来た曲を聞いた時に初めて体験して以来、コオロギにとって音楽を聴くことは、他の人とは違った意味を持った。
そのコオロギの特異体質を知っているのは、歩く校則違反と呼ばれる学校一の問題児・荒巻小吉だけだ。ひょんなことから気が合い、コオロギもショーキチも、お互い唯一仲良くしている相手だ。これまた校則に違反してアルバイトをしているCDショップの面々とも、コオロギは面識がある。
ある時ショーキチが、バイト先のCDショップが主催しているライブにコオロギを呼んだ。なんだか曰くありげな顔をいて。
シズハライサナという、同年代のように見える歌い手の歌を聴いた途端、コオロギは螺旋の塔へとトリップしていた。
螺旋の塔を登り切った先の部屋には、スズハライサナと同じ顔をした女の子がいた。彼女と話す中で、どうもこれはこれまでのトリップの体験とは違う気がするぞとコオロギは思い始める。
ショーキチから聞いて驚いた。なんとスズハライサナは同級生だというのだ。本名は、静原秕奈。
コオロギは、少しずつ静原のことが気になっていき…。
というような話です。
これはなかなか読ませる作品でした。
デビュー作で、しかも著者略歴を見る限り僕と同い年っぽいんだよなぁ。新人のデビュー作としてはなかなか巧く出来ているのではないかと思います。
まず、設定が絶妙だと思います。コオロギの、音楽を聴くと異世界にトリップしてしまう、という特異体質が、凄くストーリーに幅を持たせている。
本書は基本的には、高校生三人が学校や学校外でわらわらするという、一応日常的な世界に軸足を置いた作品ではあるんだけど、そこにコオロギの得意体質を組み込むことで、ファンタジー的な要素をうまく取り込んでいる。僕はあんまりファンタジー的な作品が得意ではなくて、そもそも始めっから全部ファンタジー的な世界観って作品だと、すんなりと受け入れられないことが多いんだけど、その点本書は、日常の世界の中に時折ファンタジー的な世界が挿入されるという構成になっているから、僕でも読みやすかった。もちろん逆に言えば、ファンタジー的な作品が好きな人がどんな風に本書を読むのかはちょっとわからないのだけど。
そのファンタジー的な描写、なかなか巧いなと思いました。コオロギがトリップする世界は、大きく4つぐらいあるんだけど、そのそれぞれがなかなか巧く描かれていく。一番多く描かれるのはもちろん螺旋の塔で、その螺旋の塔は、コオロギが訪れる度に少しずつ変化していく。その変化の描き分けなんかもいいと思うし、塔の最上階にいる女の子(名前はついてるんだけど、書くとちょっと混乱するから一応書かない)の感じも好き。作中のストーリー展開ともっとも深く関わるこの螺旋の塔の描写は、これから物語がどう展開していくんだろう、という興味をガシガシ与えてくれるという点でもなかなか巧く機能していて、いいなと思います。
本書の冒頭が、まさにコオロギがトリップした世界が描かれるんだけど、これで物語に一気に引きこむ辺りはうまいなと思いました。初めちょっと、なんだこの描写は?って思うんだけど、すぐにそれがコオロギの得意体質と結びついていることが判明する。なかなか読者を引き込むのに巧い冒頭だなと思いました。

感想

ストーリーはなかなか巧く出来ていると思いました。なかなか一筋縄ではいかないというか、決してシンプルではない物語で、新人でこれだけ書けるのはなかなかの力量だと思います。ただ個人的な意見では、なかなか高いレベルを目指しているけども、まだそこまで力は蓄えられていないという感じがして、もう少しだけシンプルな物語でもよかったのかもしれないなぁ、なんて思ったりしました。
音楽が好きだったり素養があったりすればもっと楽しめたのかもとか思いつつ、それでもなかなか巧く物語を描く作家だなと思いました。新人のデビュー作としてはなかなかレベルが高いと思います。是非読んでみてください。

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