あまからカルテット(柚木麻子)の書評・感想

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あまからカルテット

本書は、女子校だった中学時代からの友人である、ピアノ講師の咲子、編集者の薫子、美容部員の満里子、料理上手な由香子という四人が、日常的に起こる様々なトラブルを、料理を通じて解決するという連作短編集です。
これは結構面白い作品でした。色んな意味で、凄くよく出来た作品だったなぁ。
基本的には、子供の頃からいつも一緒にいた女四人が、それぞれの抱える事情でトラブっているのを、他の三人がどうにか手助け、その過程で料理が大きな鍵を握る、というストーリー展開なのだけど、そういう同じ流れの構造でありながら一編一編違ったタイプの話になっているし、しかもそれぞれの話が個別に分断されているわけではなくて、各編の固有の話と同時並行で、四人の関係がリアルタイムで変化していって、最初から最後まで長編小説のように個々の話が絡みあって物語が進んでいくという構成が非常に巧いと思いました。特に僕が個人的に感心したのが、具体的には書きすぎないようにするけど、ハイボールの話の時に出てきた咲子のとある反応。その話だけでは理解出来ないその反応が、後々の話を読むとちゃんと分かるのですよね。
各編の話は、ちょっとしたミステリ仕立てになっていて、しかもそれに料理が巧く絡んでいるという点で、結構新しいタイプのミステリだなぁ、という感じがしました。謎自体はそこまで大したものではなくて、咲子が一目惚れした男性を探せ!だの、ラー油の送り主を探せ!だのといった、非常に小さい事態ばかりなのだけど、それが作品の雰囲気と凄くマッチしている。仲良し四人が、仕事の傍らでどうにか片手間で対処出来る程度の謎でないと、本書はどうにも成立しえないので、その辺りの謎の設定の仕方がまず巧いなと思いました。そして、どの話にもきっちりと料理が密接に関わっている。これが結構無理矢理という感じではなくて、料理の存在そのものが結構重要なモチーフになっているんです。稲荷寿司とか甘食とかラー油とか、ただモチーフとして出てくるだけではなくて、それがなかなか魅力的に描かれていて、凄く食べたくなるんですね。本書で描かれている食べ物が凄く美味しそうに感じられる、とか書くと、食に興味のない僕が言っても説得力がないですけど、でもたぶん、食べることが好きな人にとっては、その料理の描写だけでも凄く気に入る作品なんじゃないかなぁ、という感じがしました。
もちろん、本書は、四人の関係性や謎解きの過程、解決した後の展開など、ケチをつけようと思えば色んなところに突っ込むことが出来る作品です。でも、少女マンガみたいなものだと思って、この緩やかな物語の設定をすんなりと受け入れることが出来れば、凄く愉しく読める小説だと思います。
ラストのおせちを巡る物語は、ホント巧いなぁと思いました。この作品だけ若干長めで、しかも群像劇っぽい体裁を取っています。おせちを持って薫子の家に集合するはずの三人が、それぞれが別の事情で薫子の家に辿りつけないでいる。そうこうしている内に、薫子の方でも大変な事態に陥る。その緊迫した感じが凄く面白いなと思いました。特に、どうにかして番組開始までにおせちを作らなくてはいけなくなった由香子の話は良かったなぁ。
個々の物語もさることながら、四人の関係性がまた非常に面白い。この四人、もちろん仲がいいのだけど、いがみ合ったり喧嘩したりすることがないわけではもちろんない。本当にちょっとしたことがきっかけで、彼女たちの関係はぎこちなくなったり、収集がつかなくなったりする。でも彼女たちは、何度もそういう状況を乗り越えていく。

感想

本書を読んで僕は、大学時代の友人を思い出しました。大学時代の友人である女子5人は、物理的に距離が離れたり、それぞれの個人が様々な事情を抱えるようになってからも、学生時代と同じような関係性の中でいいやり取りを続けている。5人は5人でいるという関係性をきちんと維持している。小説や映像でよく描かれるのは、女同士の結構醜かったりする人間関係だと思うんだけど、なかなか小説やドラマでは描かれにくい仲の良い女性のグループというものの存在を僕は知っていたし、それが本書でも描かれていて面白かったです。もちろん、僕が知ってる5人組と、本書で描かれる4人組に、性格や環境やなんかで共通点があるなんてことは別にないんですけどね。
もちろん男が読んでも楽しめるけど、やっぱり女性が読んだらより楽しめる小説だろうと思う。本物の親友というものの強さや安心感みたいなものがしっかりと描かれている作品で、読んでいて凄く楽しい小説

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