謎の1セント硬貨 真実は細部に宿る in USA(向井万起男)の書評・感想

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謎の1セント硬貨――真実は細部に宿る in USA (講談社文庫)

本書は、宇宙飛行士である向井千秋の旦那である向井万起男氏による、固い言い方をすれば「アメリカ文化論」とでも言えるようなエッセイ集です。
著者がこの本を書くことになる最初のきっかけになった出来事をまず書こう。
宇宙飛行士である妻に会いに、著者はよくアメリカに行き、奥さんと二人で持ち前の好奇心を発揮して色んな場所に出かける。そんな夫婦がある時飛行機の中で、ちょっとした出来事に遭遇した。
その日がクリスマス・イブでなかったら、この本は生まれなかったかもしれない。
客室乗務員の一人が、エコノミークラスの乗客に向って、こんな提案をした。
「ファーストクラスのお客様に出すシャンパンが余ったので、どなたか一名に差し上げます」と。ノリのいいアメリカ人の乗客は、大騒ぎでノリノリだ。
さらに客室乗務員の話は続く。
「どうやってお一人を選ぶか考えたのですが、一番古いペニー(1セント硬貨)を持っている方に差し上げます」と。
するとその瞬間、財布の中を見たわけでもない乗客の一人が、「シャンパンは俺のものだ!」と叫んだ。
日本人である著者らはもちろん、アメリカ人の乗客にも何がなんだかさっぱり分かっていない模様。
説明を聞くと、どうもこういうことらしい。1セント硬貨は、今は亜鉛で作られているけど、昔は銅で作られていた。しかし戦争で銅が不足したため、戦時中は鋼鉄で作られた、というのだ。スチール・ペニーと呼ばれているその1セント硬貨を持っている、ということのようだった。もちろんシャンパンはその乗客のものとなった。
しかしここで著者は、持ち前の好奇心が疼いてしまう。スチール・ペニーは1943年にしか作られなかったらしいけど、他の都市には作られていないのか、スチール・ペニー以外の呼び名はないのかどうか、などなど。
日本に帰ってから、スチール・ペニーについて書かれているサイトを見ていた著者は、そのサイトにメールを送ってみることにする。自分のくだらない質問なんかには答えてもらえないかもしれない、という不安は払拭され、実に丁寧な返事が返ってきた。
そこで著者は、味をしめてしまった。アメリカのサイトにメールを送れば、アメリカ人はどんな質問にでも答えてくれるのかもしれない。
元々書籍化する予定はなく、完全に自分の趣味でやっていた「アメリカのサイトへのメールでの質問」を、最終的に書籍化したのが本作です。
いやはや、これはなかなか面白い作品でした。無差別に大量の質問メールを送りまくる、という著者のやり方も面白いですけど、それにきちんと返事を返してくれるアメリカ人が非常に多いこと、そしてその返ってくる答えの多様さに非常に驚かされました。
ネットでちょっと調べたけど見つけられなかったんだけど、日本でもどこかの誰かが、「ちょっとした疑問を企業の広報に電話して聞いてみよう」みたいな企画をネット上で見たことがあります。まあでも、これは分かる。本書でもいくつか企業にメールを出しているけど、企業としては聞かれたら答えないわけにはいかない。とはいえ、先に挙げた日本の例は電話だ。電話の場合、なかなか回避することは難しい。しかし著者は、メールで質問を送っている。やろうと思えば無視できてしまう。しかしアメリカ人たちはそうはしなかった。しかも著者は、企業ではない、ごく一般人や官公庁にもメールを出している。

感想

しかし、この夫婦の仲の良さ、そして好奇心の強さは、人生楽しいだろうなぁと思わせる力があります。お互いが様々なことに好奇心や疑問を持ち、そしてもう一方もそれに乗っかって楽しめてしまう。もの凄くくだらない目的のために何時間を車を走らせることになるのに、貴重な休暇をそんな風に過ごしても、お互いに嫌ではないどころか、バリバリに楽しんでいる。そういうところが、作中の端々から伝わってくる感じがして、本書の面白さは、もちろんアメリカのちょっと変わった文化という内容が非常にいいからなんだけど、それ以上の面白さがこの夫婦のあり方からにじみ出ているなという感じがしました。
アメリカに興味はない、という人にもきっと楽しめるでしょう。というのは、本書はアメリカのことを書く過程で、日本と比較をしているからです。

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