詩羽のいる街(山本弘)の書評・感想

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詩羽のいる街 (角川文庫)

本書は、詩羽という不思議な少女がいる街を舞台にした、四編の連作短編集です。
いやはや、これはもうべっらぼうに面白かった!!山本弘ってSF作家っていうイメージが強くて(デビューなんかはラノベ方面なんだろうけど)、何作か読んだことがあるんだけど、好きなんだけどSF作品特有の難しさみたいなものもあって、自分の中で「これは凄い!」ってところまで行かない作品が多かったんだけど、この作品はもうハチャメチャに面白かったです。本書の解説は有川浩なんだけど、まさに有川浩作品が好きな人には間違いなくドンピシャだと思うし、エンタメ作品としてウルトラ面白いと思いました。とにかく何にしても、詩羽のいる街に住みたくなる!ってか詩羽に会いたいなぁ。
「それ自身は変化することなく」の内容紹介でチラッとネタバレ的なことをしちゃってるんだけど、これを伏せたままだと感想がちょっと書けないし、それが予め明かされていたからと言って読むのにそこまで支障はないと判断したんだけど、詩羽というのはとにかく、お金も家も持たずに生活しているんですね。
これが、山奥で仙人のような生活をしているっていうなら分かる。実際に山奥で仙人のような生活が出来るかどうかはわからないけど、文明社会から離れて暮らせば必然的にお金というものとも関わらなくなるだろうと思う。
でも本書で描かれる詩羽は、そうじゃない。ちゃんと文明社会で暮らしているし、身体を売ったりしているわけでもないのだけど、お金も家もないまま生きている。
解説で有川浩がこんな表現をしている。

『詩羽は「奇跡」に魔法を使わない』

まさにその通り。詩羽は、まるで魔法のような形で、お金も家もない生活をもう何年も続けている。しかしそれは、決して魔法ではない。詩羽にはちょっととんでもない能力が備わっているのだけど、発想だけで言えば僕らでも実践可能なレベルの事柄だ。それで詩羽は、奇跡を起こす。その奇跡の恩恵をお金以外の形で受け取ることで、詩羽は生活をしている。
この詩羽の生き方の発想は、これから生活していく中でリアルに必要になっていくのではないかと思います。
詩羽の能力というのは、ある小さな社会の中で、何かが足りない人のところに誰かが余らせている何かを、誰かが必要としているサービスをその能力を持つ人にやってもらうというような、高度なマッチングです。これはただ、AさんとBさんの間のマッチング、というような生半可なレベルではない。例えば、AさんとBさんの過剰でCさんの不足を埋めるとか、Aさんの不足をBさんが、Bさんの不足をCさんが、Cさんの付録をAさんがとか、そういう非常に複雑なマッチングも次々と成立させていく。
こういう説明だとわかりにくいだろうから、一例を挙げます。
本書の中に、スーパーの余り物でもう捨てるしかない野菜を使って料理を出すエコな店がある。オープン前、こういう店を作りたいんだと詩羽にこぼしたところ、すぐにスーパーの店長と話をつけて棄ててしまう野菜をもらえることになった。さらに、やはりその店でもすべての食材を使い切ることが出来るわけではない。余った野菜は肥料にする。さてここで、別の人が出てくる。切り売りされた土地のうち建物を建てるにはどうも微妙で持て余している土地を持つ人と、定年退職をした人で農業でもやりながら過ごしたいという人を詩羽はマッチングさせた。店の廃材で作られたその肥料は、その農業者の元へと渡され、さらに彼が作った野菜がその店の料理に変わる。

感想

どの話も凄く面白かったんだけど、個人的には「ジーン・ケリーのように」が結構好きかなぁ。ストーリーとして非常によく出来ているのは最後の話だと思うんだけど、この「ジーン・ケリーのように」の話では、詩羽の能力がある種の経済活動以外にも抜群の力を発揮するという描写が巧いと思うし、自殺しようとしていた少女の心の揺れや、そこに詩羽が入り込んでいく過程など、色々見事だったよなぁ。冒頭の「それ自身は変化することなく」は、詩羽の神憑った生活っぷりを具体的に知ることが出来るのが面白いし、三番目の「恐ろしい「ありがとう」」は、有川浩の解説中の「これほど清々しい「悪意に対する勝利」は他にない」という表現がまさにぴったりで見事だし、一番最後の話はちょっと理由があって内容紹介はしなかったけど、作中で出てくるあるオリエンテーリングが非常によく出来た設定

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