もういちど生まれる(朝井リョウ)の書評・感想

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もういちど生まれる

本書は、ちょっとずつ重なりあう人間関係の中にいる五人の大学生を描いた、連作短編集。
もう、これは相性が抜群だっていうことなんだろうと思うんだけど、やっぱちょっと朝井リョウの作品ってピッタリすぎる。この作家はホントに凄いなと思うし、今の作品ももちろん大好きだけど、これから成長していく過程でどんな作品を生み出していくのか、本当に楽しみで仕方がない。
本書を読むと、『一瞬』という言葉が強く思い浮かぶ。
朝井リョウの小説はどれもそうだけど、一瞬一瞬の連続として物語が成立しているように思う。こういう小説って、案外読んだことがないような気がする。
普通小説って、説明的な文章もあれば、人物紹介的な文章もある。物語を読者に届ける上で必要な要素としての、ただそれが存在することで『物語なんだな』ということが伝わってしまうような、そういう要素って必ずあるはずだと思う。
でも朝井リョウは、そういう小説の書き方をしないように思う。
朝井リョウは、主人公が感じる目の前の一瞬の切り取り、その連続として物語を生み出していく。今の一瞬を切り取る、そしてその10秒後の一瞬をまた切り取る。そしてさらにその10秒後の一瞬を切り取る。そういう切り取られた一瞬一瞬が、ふわりと積もる雪のように重なっていって、物語が成立しているように思う。
それって、結構奇跡的だなと思う。
朝井リョウが、というか各々の主人公たちが切り取り一瞬一瞬は、あまりにも切実で、あまりにも儚い。ぼんやりと何も考えているだけの人間には、今も10秒後も対して変化はないだろう。でも本書で描かれる人たちは、そうではない。必死さのベクトルや、その対象に違いはあるけど、みんなどこかを目指しているし、どこかを抜けだそうとしている。そういう人たちの一瞬は、一瞬ごとにめまぐるしく変化していく。朝井リョウは、その儚い瞬間を、サバンナで動物たちの決定的瞬間を絶妙なタイミングでフィルムに収めるカメラマンのように切り取っていく。
それがやっぱり凄いなと思う。
今まで、「桐島、部活辞めるってよ」「星やどりの声」と読んできたけど、僕が感じるそういう『一瞬の切り取りの連続』というベースは変わらないままで、作品ごとに描きだそうとしていることが変わっていくのも面白い。
「桐島~」は僕は、まさに瞬間芸とでも言うべき作品だったと思う。一瞬一瞬を的確に絶妙に切り取っていく、その積み重ねとして作品を成立させるという、少なくとも僕がこれまで読んできた小説にはなかなかなかったような斬新なやり方で、そのやり方だけを武器に物語を描いた。「桐島~」については、ストーリーがない、という批判を目にすることがある。実際その通りだ。でも僕は、だからこそあの作品の凄さが際立つのだ、と思う。一瞬の切り取り方、そしてその一瞬の積み重ね方の斬新さに、僕は衝撃を受けた。凄い作家が出てきたものだなと思った。
「星やどりの声」では、父親という一つの大きなベクトルに向って物語が編みあげられている感じがした。一瞬を切り取っていくことは変わらない。しかし「星やどりの声」では、切り取ったものの積み上げ方により主眼が置かれているように僕には感じられた。一瞬を切り取って積み上げていったものが何を形作るのか。

感想

個人的には、冒頭の「ひーちゃんは線香花火」が、ストーリー的にも抜群で素晴らしいと思った。最後の「破りたかったもののすべて」は、話としてはそこまで好きではないんだけど、でも登場人物の中で一番気になったのは、「破りたかったもののすべて」のハルかもしれない。「もういちど生まれる」では「星やどりの声」と同じく双子が出てくるんだけど、朝井リョウは、決して対称にはなりえない双子(しかも姉妹)の、どうしようもない宿命みたいなものを描くのが凄くうまいなと思う。朝井リョウの描き方だと、双子ってモチーフはきっと描きやすいんだろうな、と思う。なんとなくだけど、そう思う。
相変わらず、朝井リョウの作品はちょっと素晴らしいと思いました。たぶんこの作家とは、相性の問題は結構大きいと思う。著者と感覚がどれぐらい合うかによって、感想がかなり変わってくるかもしれない。ドンピシャはまれば、ちょっと凄い読書体験になると思います

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