自分を好きになる方法(本谷有希子)の書評・感想

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自分を好きになる方法

本書は、リンデという一人の女性の人生を、3歳・16歳・28歳・34歳・47歳・63歳で切り取り、「心から一緒にいたいと思える相手」と出会えることを夢見ながら、日々の些細な孤独と闘いながら生きる女性の姿を描き出した連作短編集。
僕としては、「16歳」と「28歳」が素晴らしすぎて、この2編を読めただけでも満足だなぁ、という感じがします。
「16歳」では、ボーリングにきた三人が、他愛もないことを喋りながら、お互いの距離感を測っている感じがとても面白い。そうそう、学校にいる時って、こういうどうでもいいことで悩んでたよなー、みたいな、ホントどうでもいいことでリンデは悩むし、リンデ以外の内面描写は描かれないけど、カタリナもモモも同じように悩んでいる。
そしてそれは、「自分たちは、クラスの中でマイナーである」という認識が土台になっていて、その物悲しさみたいなものが凄くいい

『ポーチド・エッグにハンバーグが組み合わさったときは、もう少し大胆に、その誰かがほんとうに一緒にいたいと心から思える魅力的な相手で、その誰かもリンデとずっと一緒にいたいと心から思ってくれているのだ、と想像した。その子といれば、自分はもっと楽しいことを次々と考えつく人間になれる気がした』

わかるわー。んで、それって、結局幻想なんですよねぇ。どこにいたって、冴えない人間は大抵冴えないんですよ。っていうか、「その子といれば」っていう、相手に寄りかかった発想をしている時点できっと、ダメなんですよね。そりゃあ冴えないわなぁ、って感じ。それはリンデも他の二人も分かっているかもしれないけど、でも直視したくはない。三人で一緒にいて、夢の話みたいなどうでもいい話をして、とりあえずそういうところから目を逸らす。そうしないと辛いから
そういう三人の「負の結託」みたいなものがプンプン立ち現れていて、凄く良かった。ボーリング場で、4人グループのような表示になってしまった、という設定が、本当に凄く巧く活かされていて、とてもいいなと思いました
「28歳」も凄くいいです。28歳のリンデの話も、ホントくだらないんです。ただ、この「くだらない」っていう感覚は、きっと男目線なんだと思うんです。女性は、恐らくリンデに共感することでしょう。僕も、男の気持ちもわかるし、女の気持ちも分かる。状況設定が物凄く絶妙で、個人的にはどっちが悪いとは判定しにくいと思うんですけど、読む人によって「明らかに男が悪い」「明らかに女が悪い」と、きっと意見が分かれるのではないかと思います
ホテルにいて、レストランに出かけるまでのほんのちょっとの時間を描いた物語なんだけど、男も女もそれぞれの価値観で物事を判断していて、見事にすれ違っていく。正直、大した問題じゃないんだ。ないはずなんだけど、でもそれが、とても大きな問題であるかのように膨れ上がっていく過程が絶妙に描かれていく。結局人は、他人のことなんか理解できないんだな、ということがよくわかる物語で、凄く好きです
34歳以降のリンデも、年代年代で様々に変化はあるものの、どことなく「あぁ、リンデらしいな」と思わせる部分がちらほらあって、なんというか楽しい。この「リンデらしさ」っていうのは、生きていく上では邪魔っていうか、たぶんリンデ自身も鬱陶しいなと思っている部分なんだろうなと思うんだけど、そういう厄介な部分で、でもそれがリンデを人間らしくする。そうそう、人間ってこういう面倒臭いところあるよねー、というような感じがして、なんだか楽しい。でも、リンデみたいな人が周りにいたら、やっぱり、面倒臭いかもなぁ(笑)

感想

リンデについてそれが理解できても、リンデ以外の女性に通用するかは分からないけど(笑)、男が感じる「女って、よくわかんねぇよなぁ」みたいなところが、少しは理解できてくるかもしれない。女性には女性の理屈があって、男には男の理屈があって、それが噛み合っていないだけなのに、「どっちかがおかしい」という話になるのは、なんかもったいないですよね。初めから、「違い」を強く意識していられればそんな争いにならないかもしれないし、本書を読むとその「違い」についてちょっとは理解できるかもしれない。恐らく本書を読んで共感するのは女性が多いと思うんだけど、そういう視点で読むと、男も楽しめるんじゃないかなと思います。
人生につきまとう「孤独」を炙りだすような作品で、面白いと思いました。僕のオススメは、「16歳」と「」28歳
です。是非読んでみてください

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